西舞鶴→天橋立


北近畿タンゴ鉄道の普通列車(西舞鶴駅)


KTR普通列車の車内


西舞鶴駅


とんかつお弁当


由良川を渡る


丹後由良海水浴場(列車内から)

 西舞鶴で北近畿タンゴ鉄道(KTR)に乗り換える。

 KTRは、旧国鉄の赤字ローカル線であった宮津線(西舞鶴-豊岡間)、それに、未成線であった宮福線(福知山-宮津間)を引き継いだ第三セクターである。
 JRと共用の駅建物は異様に立派かつ少々場違いな感じのガラス張りビルとなったが、KTRののりばがその隅っちょに追いやられている状況は以前と同じである。

 豊岡行き普通列車は、たった1両編成であった。
 しかし、その車内はオール転換クロスシートで、カーテンまでついている。冷房がじゅうぶんに効いていることは言うまでもない。
 定刻、列車はゆっくりと動き出した。KTRの車両基地を右手に見ながらぐんぐん加速する。床下にエンジンをつり下げた気動車だが、その騒音はほとんど気にならない。乗り心地は上等で、ほとんど揺れない。
 国鉄の立派な列車から、ガタピシ揺れるローカル私鉄に乗り換えたというのは過去の話で、今や本社が見捨てたJRのローカル線よりも、地元密着で必死に生き残りをはかる第三セクターのほうが遥かに乗り心地もサービスもいいのだ。

 その優雅な車内で、私は朝食を摂ることにした。京都で買ったとんかつお弁当(630円)をひらく。戦前から京都駅での駅弁販売を手がける荻の家の調製で、俵型のごはんにトンカツとキャベツ、フライドポテト、付け合わせ少々という実用的な駅弁である。今や貴重品とも言える経木の容器に入っているので、時間がたっても、ごはんやカツがベタベタになっていないのは有り難かった。

 四所という小駅を過ぎ、短いトンネルを抜けると、左手にゆったりとした由良川の流れが見えてくる。列車は河口近くまで並走したのち、全長551.79mの由良川橋りょうでこれを横切る。

 丹後由良を出ると、右手に若狭湾が見えてきた。砂浜では、たくさんの人が海水浴を楽しんでいる。

 京阪神の人たちにとって、若狭湾は水のきれいな海水浴場の代名詞である。かつての宮津線や小浜線には、夏休み期間中、大阪や京都から何本もの臨時列車が運転されていた。けれども、高速道路が開通した今では、海水浴はマイカーでというのが常識だろうと思う。クルマなら、重い荷物を持つ必要もないし、子供の躾に気を遣うこともない。
 KTRに寄り添う国道178号線には延々クルマの列が続いていたが、列車内に海水浴客とおぼしき姿は皆無であった。

 12時06分、宮津着。
 古風な跨線橋が残る駅だが、構内の一部には新しいコンクリート柱が建ち、架線が張られている。1988年に開通した宮福線関連の施設である。

 宮津の人たちにとって、宮津と福知山を直結する鉄道は長年の夢であった。既に明治時代にその計画があったのだという。長年の夢が叶い、1966年、福知山から途中の河守までの国鉄線路の建設が始まる。1978年には宮津まで延長されることが正式に決まるが、国鉄再建計画のあおりを受けて、1980年にはあえなく工事が中断されてしまった。

 けれども、鉄道を熱望する地元では、第三セクターの宮福鉄道(のちに北近畿タンゴ鉄道(KTR)に改称)を設立して、自前で工事を再開する。1988年7月、宮福鉄道宮福線として営業を開始。その後、1990年4月には、廃線となるはずだったJR宮津線の経営を引き継ぎ、現在に至っている。

 天橋立という観光地を抱えるため、設備投資には意欲的で、1996年3月に、福知山-天橋立間の電化を完成させている。
 大阪・京都からJRの特急電車が乗り入れ、自らも電車に併結できる特急型気動車を新造した。この電化工事は、純粋に京阪神への時間短縮を目的としたもので、KTR自身は電車を保有せず、普通列車は気動車のままである。
 そのおかげで、2002年度の統計(国土交通省)では、5億4千万円の赤字(経常損益のマイナス)を計上、この金額は第三セクター鉄道中第一位となっている。

 架線下のレールをひと駅だけ走った気動車は、12時15分、天橋立に着く。

天橋立温泉


天橋立駅


天橋立温泉 智恵の湯の露天風呂

 『天橋立に温泉!?』と訝る方もいらっしゃると思う。つい最近、掘り当てられた新しい温泉である。
 『どこでも簡単に温泉が出るのか』と疑問に思う人があるかも知れない。温泉探索と掘削の技術が進歩した結果、今日、その気になれば、日本全国だいたいどこでも温泉を掘ることはできる。

 昨今のブームを受けて、温泉を観光振興の起爆剤にしようとする町や村が少なくない。
 古くからの観光地である天橋立も例外ではなく、1999年に温泉を掘り当て、2003年には天橋立駅前に日帰り専門の温泉浴場が開業した。名前は智恵の湯という。

 入浴料は大人600円だが、KTRの利用者は、天橋立駅で下車する際に申し出ると割引券が貰える。
 この種の割引券は、窓口に山と積まれて自由に持っていける場合が少なくないけれど、駅員から受け取ったそれは、通し番号が印刷され、日付入りの改札印が捺された本格的なものであった。

 施設の詳細はサイト内の別項を見ていただきたいが、観光客を意識した風情ある造りで、温泉初心者の鉄道ファンの皆さまにもお勧めできると思う。


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制作:2005年8月21日 修正:2005年8月31日