上田→別所温泉


上田駅で


"まるまどりーむ号"車内


下之郷駅で


別所温泉手前で
構内に保存された丸窓電車が見える


別所温泉駅で

 上田交通別所線は、上田と別所温泉を結ぶ総延長11.6Kmの私鉄である。

 すべてが一新された上田駅の片隅に、昔ながらの古びたホームがあって、ちっちゃな電車が客を待っている---私が想像していた別所線の姿だが、現実はおおいに違った。まるで大都市の近郊電車のような、真新しい高架ホームに発着しているのであった。

 ホームで発車を待っていたのは、濃紺とクリームに塗られた"まるまどーりむ号"。
 1986年まで別所線を走っていた"丸窓電車"を模した車両である。車体そのものは、もと東急線を走っていた近代的なスレンレス製なのだが、塗色や内装を変えて、かつての名物電車の雰囲気を再現している。
 木目調のシートが張られた車内は、阪急電車を思わせる落ち着いた雰囲気。古い新聞やチラシをカラーコピーした吊り広告もある。

 えんじ色のモケットの座席がほぼ埋まった状態で上田駅を出ると、"まるまどーりむ号"は真新しい高架橋の上を走る。ローカル私鉄らしからぬ光景だが、程なく赤いトラス橋で千曲川を渡ると、私のイメージ通りの小さな駅が現れた。

 電車は、住宅と田んぼが混在した風景のなかを、淡々と走る。
 時折現れる急カーブや短い島式ホームの駅は、いかにもローカル私鉄らしい情景だが、架線柱はコンクリートの新しいものに更新されていて、ちょっと味気ない感じだ。線路の手入れも手抜かりはなく、思ったより揺れない。冷房の効いた車内は、快適であった。
 地方のローカル私鉄だから古風な車両が走っていると考えるのは、鉄道ファンの幻想だろう。鉄道の敵は自動車だが、東京や大阪で販売される車と地方で売られる車に差はない。ならば、ローカル鉄道だって、都会と同じ水準の車両を走らせなければ、乗客に見放されてしまう。

 乗客は、お年寄りや高校生が主で、一目で温泉客とわかる旅行者は見かけなかった。
 東京駅から新幹線で1時間20分。そこからローカル電車に揺られて温泉へ----鉄ちゃん温泉ファンの私には、おおいに魅力的な旅のプランに思えるのだが...。

 車庫がある下之郷駅を過ぎると、列車はゆるやかな傾斜地を登っていく。
 線路の両側は一面の水田で、棚田というほどでもないが、1枚1枚の田んぼの間にはわずかずつ段差がある。

 電車は、小さな駅にも丁寧に止まっていくが、どの駅のホームにも、カメラを手にした人がいる。電車に向かってシャッターを切る訳でもないから、鉄道写真の愛好者ではないと思うが、何かの撮影会でもあったのだろうか。

 上田から約30分で、電車は終点の別所温泉駅に着く。
 昭和30年代で時間が止まってしまったかのような古風なたたずまいの駅だが、今日は何かのイベントが行われているらしく、駅前では琴の音が聞こえて、抹茶がふるまわれている。別所線へのメッセージが書かれた著名人のパネルも飾られている。おそらくは、別所温泉の観光PRか、あるいは別所線存続に関する催しだろう。

 駅前が賑やかなのはいいことだけれど、遠来の旅行者である私に何のイベントかがわからないようでは、それを行う意味がないではないか!?

※上田交通別所線は、2005年10月1日付で分社化されて、上田電鉄(株)となった。

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別所温泉


別所温泉駅


別所温泉 大湯


大湯の浴槽

 別所温泉は、長野でもっとも長い歴史を持つ温泉とされ、9世紀初頭に創建されたという北向観音を中心に、20軒あまりの旅館や民宿が軒を連ねている。 

 温泉街には、全部で3か所の外湯があるが、今回は駅にもっとも近い大湯でひと風呂浴びることにした。

 別所温泉駅から、なだらかな坂道を10分弱歩くと、立派な湯屋が見えてくる。
 名前のとおり別所温泉の中心となる外湯。タイル張りの浴槽には、わずかに白濁した湯があふれている。
 心地よい硫黄臭を嗅ぎながら、広い湯船で手足を伸ばすと、湯田中を出てからほとんどカブリツキに立っていた疲れもすっと消えるようであった。

 このまま、この静かな温泉地で1泊できればどんなにいいかと思うが、もちろんそんな贅沢は許されない。今日はこのあと、特急と新幹線を乗り継いで、大阪まで帰る予定になっている。

 別所温泉16時13分発の上田行きは、やはり"まるまどりーむ号"であった。
 駅前で行われていた正体不明のイベントは無事終了したようで、そのスタッフとお見受けする"上田交通"の腕章をはめた人が幾人も乗っていた。

 

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制作:2005年10月18日 修正:2005年10月22日