湯巡りトロッコとスイッチバックの旅


奥出雲おろち号(出雲坂根駅)


トロッコの客室


客車の運転席


カブリツキ


車掌さん


亀嵩駅の蕎麦

奥出雲おろち号

玉造温泉→宍道→出雲坂根

 朝7時に目が覚めた。無情の雨が降っている。我が身の不運を嘆きながら朝風呂を浴び、玉造温泉駅に向かう。

 奥出雲おろち号は、1998年春に運転を始めた木次線の観光列車である。風を肌で感じながら、日本の原風景とも言うべき奥出雲の車窓を愉しもうという趣旨の列車で、春から秋にかけての週末、木次-備後落合間で運転される。ハイシーズンは特別に松江駅が始発・終着になり、今日はその延長運転日である。

 玉造温泉では、一般観光客十数名が乗車。さすがに運転を開始して6年目になると、鉄ちゃん以外にもその存在は広く知られるようになるようだ。
 トロッコの先客は、ほんの数人であったから、観光客たちは好みの座席に座ることができる。けれども、列車が速度を上げると、風雨が容赦なく吹き込んでくる。客は、早々に控え車に引き揚げてしまった。

 宍道から、列車は木次線に入る。とたんにいかにもローカル線らしい急勾配と急カーブが現れる。

 奥出雲おろち号は、トロッコ客車と屋根付きの控え客車の計2両とDE15型ディーゼル機関車で編成される。湯巡り山陰号同様、客車の一端に運転席があって、容易に列車の進行方向を変えられる構造である。機関車は宍道方に連結されるので、今は客車が先頭だ。最後尾の機関車が2両の客車を後押しするかたちになっている。
 運転席は想像以上に簡素な造りで、電車や気動車のように、右にブレーキ、左にマスコンハンドルが配置されていた。

 9時58分、木次着。
 こぢんまりとしたホームに溢れんばかりの人が待っている。無人に近かったトロッコの座席が一気に埋まる。
 けれども、やはり列車が走り出して5分もしないうちに、みな、控え車に移ってしまい、結局、次の日登駅を出る頃には、トロッコの乗客は10人程になってしまった。雨はやまない。

 さて、6年前に初めて乗ったときは、懐かしささえ感じる木次線の車窓であったが、今日は随所で行われている道路工事が気になって仕方ない。前回来たときは、ゆるやかな傾斜地に棚田が広がる場所が多かった気がするが、その後、ほ場整備が行われたのか、今回は機械化に適した四角い水田が目につく。木造の好ましい形態であった出雲三成駅は、鉄骨造りの物販店に建て替えられてしまった。
 鉄道旅行者の身勝手な評価だけれど、画一的な社会資本の整備が逆に木次線の価値を下げてしまっていると思う。 

 10時47分、亀嵩着。
 手打ちの出雲蕎麦で有名な駅で、奥出雲おろち号の発着時に限って立ち売りが行われる。
 事前に車内放送がなされたこともあって、列車の到着と同時に売り子のおばちゃんの周りに乗客が群がる。あっという間に完売。私は電話で事前予約してあったので、難なく購入することができた。
 写真撮影ののち、試食する。太さ・長さがまちまちの素朴な蕎麦だが、お世辞抜きで旨いと思った。

 蕎麦の販売は、2駅先の八川でも行われる。こちらは、駅近くの蕎麦屋の出張販売。亀嵩で買い損ねた乗客たちがやはり売り子に群がった。

 列車は出雲坂根に到着(→音声はこちら)。

 この駅では、地元の業者が焼き鳥の販売を行っている。ホームに漂う香りに誘われて、多くの客が買い求めている。晴れればビールも大量に売れるのだろう。
 奥出雲と焼き鳥にどういう関連があるのか不明だけれど、観光列車の乗客に少しでもカネを落とさせようとする姿勢は評価していいと思う。

 あとで知ったことだが、この列車の運転に際して、地元自治体も相当の資金を出しているという。
 奥出雲おろち号は、道路を造り、田んぼを改築してメシを食った時代の"つぎ"を見据えた、この地方なりの挑戦でもあるのだと思う。

続く

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2003年10月16日 制作 2003年10月20日 修正