青春18---ステーキとスイッチバックの旅


929C(高茶屋駅)


亀山駅で


929C車内で


阿漕駅本屋


松阪駅下り場内信号機


松阪駅本屋


松阪の和牛ステーキ

紀勢本線

亀山→松阪

 鉄道管理局は、旧国鉄の、現業機関を統括する地域ごとの組織であった。地域的な営業施策やローカル列車のダイヤ編成などは鉄道管理局ごとに行われており、局が違うと、駅の掲示物などがまったく異なっていたことが思い出される。

 旧国鉄が民営化されたとき、本州内の在来線は、概ね旧鉄道管理局単位で分割された。具体的に言えば、JR東海は名古屋局と静岡局、JR西日本は、大阪局、金沢局以西、JR東日本はそれ以外の鉄道管理局もって構成されることになった。
 けれども、紀伊半島の鉄道を管轄していた旧天王寺鉄道管理局(天鉄局)に限って言えば、その管内は2分割され、紀勢本線亀山-新宮間と参宮線、名松線は、JR西日本ではなく、JR東海に所属することになった。三重県内の各路線は、JR東海の本社が置かれる名古屋との関係が深いという理由であろう。(注:このほかにも、主なところでは、長野局所属の中央西線塩尻-坂下間がJR東海となった)

 国鉄時代の亀山駅は天鉄局の東の拠点であり、大きな機関区やCTCセンターをも擁していたが、この"変則分割"の余波をまともに食らい、現在、駅そのものはJR東海所属、旧動力車基地は亀山鉄道部となってJR西日本に属している。

 亀山から乗り継ぐ伊勢市行きは、わずか1両の"列車"であった。
 車両は、JR東海所属のキハ11型気動車である。JR西日本のキハ120型と同様、ある車両メーカーが開発した第三セクター向け気動車がベースだから、塗色は違えど外観や内部の造りは非常に似ている。いっそのこと、JR西日本と共通の運用にすれば効率も良さそうに思えるが、やはり別会社ともなると、そうはいかないらしい。

 亀山を出た列車は、大きく右にカーブして、津へと向かう。非電化ながら、本線であるから、レールは太く、乗り心地は良い。

 開放的な運転席では、苦み走った顔つきの中年運転士が、大きな声で指差喚呼をしている。
 さっきの関西本線もそうだったが、JRのローカル線では、中高年の職員ばかりが目立つ。都市部で見かけるようになった若い職員は、まず、いない。
 かつて、働き口の少なかった地方では、跡取り息子が国鉄に就職できることは、一種のステータスでもあったと聞く。彼らは、故郷で年老いた両親と暮らすために、歯を食いしばって改革の嵐をくぐり抜けてきた訳だけれども、あと10年もすれば、皆、JRを定年退社することになる。
 私は密かに、それは旧国鉄から引き継がれた地方ローカル線の大きな転換点にもなると思っているのだが、10年先の鉄道地図がどんなものになっているのか、私にも想像はつかない。

 右手から太い伊勢鉄道の線路が合流すると、津である。さすがに県庁所在地だけあって、乗客の半分以上が下車する。

 津を出た列車は、しばらく近鉄を並走したのち、再び田んぼの中を走るようになる。戦後の混乱期に建てられた駅舎が残る阿漕で快速みえ8号、高茶屋で特急ワイドビュー南紀4号と交換。今日の上り列車はいずれも数分ずつ遅れているようで、運転台の無線機がそのことを伝えている。
 真新しいトラス橋で雲出川を渡り、近鉄山田線と立体交差すると、程なく左手からへろへろの線路が寄り添ってくる。これから乗る名松線である。2つの線路は一旦合流したあと、松阪駅構内に入っていく配線になっていた。

ステーキ試食

 松阪は、古くから栄えた商業の街である。けれども、全国的には、高級牛肉のブランドとしての知名度のほうが高いと思う。
 松阪では、2時間弱の待ち時間があるので、私は松阪肉を試食しようと考えていた。けれども、事前にネットで検索したところ、ホンモノの松阪肉を食べるには、少なくとも1万円もの予算が必要なことが判明した。
 例の牛肉産地偽装事件以来、"松阪肉"の定義がより厳格化されたらしいのだが、その途端に松阪肉が品薄になって、市場価格がハネ上がったからだという。まあ、要するに、『松阪肉と呼べなくなった松阪肉』が沢山あったという訳だ。

 1食10,000円余もの料理を食べさせる店は、きっと格も高くて、あるいは1日2,000円強の青春18旅行者を相手にしない可能性もある。こういう超高級料理を食べようとする者は、少なくとも近鉄伊勢志摩ライナーのデラックスシートで松阪にやって来る必要があるかも知れない。
 結局、私は『松阪肉と何ひとつ変わらない三重県産黒毛和牛』を扱うと正直に宣言している肉屋兼料理屋に行くことにした。

 駅の裏手にあるその店は、まるで場末のドライブインのような造りであった。ジョッキ片手のおっさんが数人、テレビの高校野球を観戦している。

 ステーキセットと生ビールを注文。程なく運ばれてきたのが左の写真のステーキである。
 什器は相当にくたびれてはいるけれど、鉄板の上でじゅうじゅう音をたてている牛肉はさすがに食欲をそそる。早速一切れ口に含んでみるが、十分に旨い。しかも、そのへんのファミレスとは比較にならないボリウムで、私は生ビールを何杯もおかわりしながら平らげた。

続く

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2003年8月11日 制作 2003年8月19日 修正