南海歴史散歩 in 和歌山


水軒駅構内


水軒行き電車


ホーム上の中間改札


和歌山市駅の運賃表(一部)
"一日2列車"の注釈つき


方向幕


和歌山市駅6・7番のりば


水軒駅構内(1998年9月)

南海和歌山港線

歴史

 南海和歌山港線は、和歌山市駅と水軒駅を結ぶ全長5.4Kmの路線である。

 和歌山市-築港町(当時は和歌山港駅)間の開業は1956年。紀ノ川河口の工業地帯への貨物輸送を目論んで、和歌山県が建設したものである。その後、フェリーターミナルが西方に移転することになったこともあり、1971年、和歌山県の手によって水軒まで延伸された。
 フェリーターミナル(現在の和歌山港駅)までではなく、更にその先まで線路が延びたのは、1966年の着工当時、水軒駅周辺にあった貯木場の貨物輸送が目的であったという。けれども、実際に開業した頃には、材木輸送の主役はトラックに置き変わっていて、現在まで貨物列車は一度も運転されたことがない。

 何とも間抜けなお役所仕事の典型だが、開業以来、南海は和歌山港-水軒間に1日2往復の旅客列車を走らせ続けてきた。そのダイヤは、当初から9時台と15時台の各1往復。貨物が走らないなら、せめて通勤にでも役立てば....というのが普通の発想だろうが、このダイヤでは、通勤に使えるわけもない。

 税金のムダ遣いとして非難されても仕方ないように思えるけれど、不思議とそういう声は起きなかったようである。

 今回、廃止に至った理由は、この間にある踏切の問題らしい。年々増加する道路交通の隘路となり、地元からは鉄道の廃止か、踏切拡幅の要望が出されていたという。地元が鉄道の廃止を求めるというのは、極めて異例なことである。

 大規模なリストラを進める南海としては、たとえ僅かではあっても赤字は少ないほうがよく、和歌山県としても、地元住民の賛成があるうちにこっそり線路を無くしてしまったほうが、自身の失政を問われなくて済むと考えたからかも知れない。

 2002年2月12日付で、南海と和歌山県は国土交通省に対して廃止を届出。通常ならば、事業廃止の届出はその1年前までに行う決まりであるが、3月29日付で鉄道事業廃止繰上届出書を提出して、5月26日の廃止が決まってしまった。

 私は以前、自動車で南海水軒駅を訪問したことがあるが、廃止を前に最後の試乗をしておこうというわけだ。

和歌山市→水軒→和歌山市

 和歌山港線の列車は、和歌山市駅の7番のりばから出発する。
 6・7番のりばは、もとは同一の島式ホームであるが、現在はホームの中間付近に車止めが設置され、難波方が加太線用の6番のりば、水軒方が和歌山港線用の7番のりばとなっている。
 7番のりば柵で隔てられ、その入り口には、自動改札機が置かれている。和歌山港線は、和歌山港を除いて全駅無人である。スルッとKANSAIなどのSFカードを利用する旅客は、ホーム上の券売機に和歌山市駅までのきっぷやカードを挿入し、目的地までの精算を行う仕組みのようだ。

 ホームには、カメラを手にした鉄ちゃんが蝟集していた。皆、わざわざ休暇をとってやってきたのであろうか。ご苦労なことではある。

 これから乗るのは、15時20分発の水軒行き普通列車。今日、2本目の下り列車であると同時に、本日の最終列車でもある。

 座席がほぼ埋まる程度の乗客を乗せて、水軒行き終列車は和歌山市駅を発った。

 資源回収業者の工場などが立ち並ぶ雑然とした一角を、電車は低速で進む。速度が上がらないまま、久保町着。古ぼけた木造モルタルの上屋があるだけの駅で、乗降客はいなかった。

 築地橋、築港町も同じような駅で、その先のゆるい上り勾配を上ったところが和歌山港駅であった。
 駅に隣接するターミナルからは、徳島行きのフェリーが出ている。難波駅や和歌山市駅では、フェリーを介して、徳島港までの連絡切符も買える。かつては、大阪と徳島を結ぶ定番ルートであったが、明石海峡大橋の完成以来、旅客数は減るいっぽうらしい。
 ホームでは、多くのカメラマンが三脚を構えている。下車する客はおらず、手早く三脚を折り畳んだ何人かの鉄道ファンが乗り込んできた。

 出発信号機が進行現示となって、列車は廃止予定区間に進む。右手には広い産業道路、左手には松林の単調な沿線風景が続く。多数の自動車が待つ踏切を通過。これが問題の和歌山港1号踏切なのだろう。

 数分間、殺風景な景色の中を走った列車は、ゆっくりと水軒駅に到着した。

 水軒駅に来るのは初めてではないから、その周囲の状況は知ってはいる。数本の貨物側線があるだけの寂しい場所である。駅舎はなく、極小の詰所のような小屋(実は、トイレである)があるだけなのは4年前の初訪問時とかわらない。

 けれども、廃止を3日後に控えた今日は、多くの鉄道ファンがカメラを構えていた。絵になる写真を撮影できる場所が限られているからであろう。

 6分間の停留時間はあっという間に過ぎて、電車は和歌山市に引き返す。

 復路も途中駅での乗降はほとんどなく、出発したときと同じホームに戻ってきた。

続く

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2002年5月25日 制作 2003年7月19日 修正