寝台特急『北斗星』・『富士・はやぶさ』


上野駅で


上野駅で


東京駅で


東京駅で

 普通電車で上野に戻ったのが16時36分。『北斗星1号』の発車時刻が近づいているので、その様子を見に行くことにする。

 2007年のいま、上野駅を発つ定期夜行列車は、1日たったの5本。新幹線に乗れば、東北各県庁所在地には余裕で日着できる時刻だから、一見して長距離の客とわかる人の姿はない。
 地平ホームに居並ぶのは、私にとっては見慣れぬステンレスの近郊電車ばかり。退勤のサラリーマンが三々五々、列車に乗り込んでいく。

 ずいぶん淋しくなった夕刻の上野駅だが、それでも『北斗星1号』が停車している13番線は、わずかに華やいだ雰囲気が漂っていた。若い女性のグループが、列車をバックに記念写真を撮ったりしている。
 20年近く走り続けたブルーの車体は、少々くたびれた感じが否めないけれど、思ったより多くの乗客がいて、ちょっと安心した。

 ホームの先端に行くと、十数人のファンがカメラを構えていた。
 国鉄末期、薄汚れた機関車の運転席で、機関士がスポーツ紙を読みふける姿をしばしば見かけたものだが、無論、現在のJRでそんな勤務態度が許されるはずがない。『北斗星1号』の機関車は古いけれども艶やかで、白い手袋をはめた運転士は、緊張感のある顔つきで信号機を見つめていた。

 走り去る列車の尾灯を見送ったあと、京浜東北線で秋葉原へ。高架下のパーツ店などを回って、若干の部品などを買う。

 再び京浜東北線で東京駅に着くと、今度は偶然にも大分・熊本行きの寝台特急『富士』・『はやぶさ』の出発時刻が迫っていたので、在来線10番線に行ってみた。

 閑散としたホームに、ステンレスの帯を巻いた客車が据え付けられている。車両の中は見事に誰も乗っていない。案内表示と放送がなければ、回送列車と言われても誰も疑問を抱かないだろう。

 JRになってから運転を始めた札幌行き寝台特急が、今なお一定の人気を集めているのに対して、元祖ブルートレインとでも言うべき九州行きは、惨憺たる状況である。

 『富士』の愛称は、国営鉄道の特別急行列車に初めて与えられた栄光あるなまえ(1929年 東京-下関間の1・2列車に対して命名)なのだが、こんな惨めな姿になっても走り続けなければならないのかとさえ思う。

 定刻、人影のない列車がゆっくりと動き出す。これを見送るのは、カメラを持った中年男性数人だけであった。

東海道新幹線


東京駅で


東京駅で


21時12分頃 のぞみ147号車内で

 平日の夕刻、3面6線の東海道新幹線ホームから、長大な新幹線電車が次々と発車していく様子は壮観である。

 電車の種類はたったの3つ。二階建てあり、併結列車ありの東北上越新幹線と較べると全然面白みがないけれど、その面白みのなさこそが、合理性を極限まで追求した東海道新幹線の身上かも知れない。

 品川でほぼ満席になった列車は、多摩川を渡って左に大きくカーブしたあと、ぐんぐん加速する。程なく新横浜通過。

 かつての新幹線食堂車は、このあたりで営業が始まったことを思い出したが、もちろん、現代の新幹線に食堂車はないので、乗車前に八重洲口の大丸で仕入れておいたデパ地下惣菜を肴にビールを呑むことにする。

 程よい酩酊状態となった頃には、もう、名古屋に到着。乗客の半分くらいが下車して、車内には空席が目立つようになる。

 京都を出てほどなく、車内の電光掲示板が、寝台急行『銀河』の廃止を伝えた。どうやら、JR各社から正式に発表されたようだ。

 私は慌ててカメラを構えたけれど、車内に関心を示す人はいないようであった。

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2008年3月15日 朝日新聞(大阪)朝刊

2008年3月15日 読売新聞(大阪)朝刊

 『汽笛よ響け どこまでも』(朝日)、『さらば「銀河」涙の汽笛』(読売) -------- ダイヤ改正当日の朝刊各紙は、感傷的な見出しで寝台急行『銀河』の終焉を報じた。

 鉄道ファン以外にも、『銀河』に特別の思い出を持った人が少なくなかったのだろう。大阪駅10番ホームには、最終『銀河』を見送ろうと2,000人がつめかけ、発車が3分遅れたのだという。

 最終『銀河』の安全運行のために多くの社員を配置したJRは、『せめて、この人たちが年1回でも乗ってくれれば...』とため息をついたに違いない。

 けれども、人の思い出は、いつかは忘却の彼方へと消え去る。
 夜行列車そのものが、鉄道史の1項目として鉄道博物館で紹介される日も、そう遠くないのかも知れない。

■参考リンク


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制作:2008年03月07日 修正:2008年03月23日