万葉線 米島口→越ノ潟


新吉久で


米島口-能生口間で


新吉久で


越ノ潟で

 米島口を出た電車は、道路を外れて専用軌道に進み、JR氷見線と新湊貨物線を跨ぐ。土手にはタンポポが咲き、遠くには白い立山連峰が霞んでいる。うららかな春の休日だ。

 再び併用軌道を走った電車は、工場の通用門みたいな場所にある六渡寺電停に停車。そのあと庄川を渡る。長いガーター橋を行く赤い新型電車はきっと絵になると思うが、乗客の私はそれを見ることができない。

 電車は旧新湊市(2005年11月に周辺4町村と合併して射水市となった)の中心部に入っていくが、道路ではなく、そのまま専用の線路が続いている。
 高岡市内の路面を走っていたときは、店舗や住宅はみなこちらを向いていた。乗客の私はまるで街の主人公のような気分でいられたけれど、今度は会社の裏口や裏塀ばかりで、裏街道を行く心境である。
 なぜそうなのか。万葉線の歴史であるとか、軌道法と鉄道事業法の違いであるとかがからんでくるので詳細は省略するが、要するに六渡寺電停から先は、もともと別の鉄道路線であったからである。

 旧新湊市の市街地に入ると、これまで下車する人ばかりであった電車に、再びお客が増えてきた。万葉線には、高岡市と旧新湊市を結ぶインターバンの役目が期待されているはずだが、現実には両市の市内交通機関としての比重が大きいのかも知れない。

 もっとも、旧新湊市はそれほど大きな街ではないので、電車は程なく市街地を抜け、工場と住宅が混在する殺風景なところを走るようになる。

 海王丸で数組の家族連れが下車すると、電車に残ったのは私と運転士だけになった。11時11分、越ノ潟着。目の前に県営渡船の乗り場があるだけで、商店のひとつもない淋しい終点だ。

 写真を撮ってから電車を眺めていたら、初老の運転士が話しかけてきた。『富山の電車にはもう乗ってきたのか』と言う。
 こちらから尋ねたわけではないのだが、この新型電車が1編成2億2千万円もすること、当初は故障続きでずいぶん苦労しこと、富山ライトレールに入る車両は基本的に万葉線と同型だが、ここでの経験を踏まえてかなり改良されているらしいことなどを話してくれる。
 最後に私から『新型電車は運転しやすいか?』と聞いたら、『乗り心地はいいが、ブレーキがやや甘いので、大変神経を使う』との答えが返ってきた。 

富山県営渡船


富山県営渡船越の潟発着場


こしのかた


富山新港を行く


富山県営渡船堀岡発着場

 先ほど少し触れたが、現在の万葉線の路線のうち六渡寺以東は、新富山駅を起点とする富山地方鉄道射水線の一部であった。射水線は富山・高岡両市の路面電車区間にも乗り入れて、直通電車も運転されたのだという。

 ところが、1950年代後半になって、この地にあった放生津潟を浚渫して新港を建設することが決まる。潟と日本海を遮る砂洲を切り開いて大型船の出入りを可能にしようという訳だが、そのとばっちりを食らったのが砂洲の上を走っていた射水線だ。

 今なら海底トンネルを掘るか、あるいは橋を架けるかするところだが、新港建設で遅ればせながらも高度成長の恩恵にあずかろうとしていた当時の富山県にそんな余裕があるはずもない。射水線は水路部分であえなく分断されることになった。1966年4月のことである。

 東西に分かれた射水線の西半分は加越能鉄道に譲渡され、両者の間は県営渡船が連絡することになるが、旅客は大幅に減る。結局、射水線(東半分)は1980年3月末限りで廃止され、しっぽの部分だけが、(株)万葉線に引き継がれて今も生きながらえているというわけだ。

 射水線の廃止とともに"鉄道連絡船"の役目を終えてしまった県営渡船だが、今も万葉線のダイヤにあわせて毎時2便が運航されている。せっかくなので、この渡船にも乗っておこうと思う。新港建設で分断された鉄道・道路の代替という考え方から、現在は運賃無料。従って、私の懐はいたまない。

 越ノ潟駅の隣には、少々くたびれた木造モルタルの建物がある。県営渡船乗船場で、うす緑色に塗られた渡船"こしのかた"が待っていた。
 以前に乗った大阪市の渡船と較べて2まわりは大きく、自転車を積み込むためのランプもついている。さすがに県営渡船だけのことはある。

 11時20分、出航。対岸の堀岡まで約770m、時間にして約5分の小さな船旅である。右舷側は無骨な港湾施設ばかりだが、左舷側には優美な海王丸の姿が見える。

 対岸の堀岡発着場にも、同じような建物があって、係員が常駐していた。ここには、分断された射水線の終点---新港東口駅があったはずだが、廃止後四半世紀を経て、その痕跡らしきものは見当たらない。

 発着場の前には、射水線の流れをくむ富山駅前行き路線バス(11時36分発)が待っていた。絶妙な連絡だと感心するが、実はこのバス、1日8便しかない。偶然に感謝しつつ、バスで富山まで行こうかとも考えたが、万葉線の旧型車両にも乗ってみたいので、そのまま渡船で引き返す。

 帰りの電車は、前面窓の下にヘッドライトがついた、古典的な車両であった。モーターが唸り、車体はがたぴし揺れる。それでも、運賃は来たときと同じで、同一運賃で乗れる車両にこれほど格差がある路線も珍しい。


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制作:2006年4月30日 修正:2006年5月16日