万葉線 高岡駅前 |
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4月29日10時13分、富山行きの特急サンダーバード1号は、時刻表どおりに高岡に着いた。 今回の旅行の主題は今日開業の富山ライトレールだが、午前中は初乗りの人たちで大混雑するに違いない。ならば、その前に高岡と新湊を結ぶ路面電車に乗っておこうと思う。 高岡駅の改札口を出ると、駅前広場の左手に"新湊方面電車のりば"という看板を掲げた上屋があった。通りから単線の線路が引き込まれ、そのまま行き止まりになっている。 10人ほどのお客が集まった頃、真っ赤な電車が音もなく入線してきた。丸みを帯びた大柄でスマートな車体。掃き溜めに鶴と言ったら失礼だが、とにかく、くたびれた建物が目立つ高岡駅前にはいささか不釣り合いな乗り物である。 ガラス張りの乗車扉が開くと、ステップなしでそのまま電車の床面となっている。何だか拍子抜けしてしまうが、車いすの人や足腰の弱ったお年寄りには、たいへん優しい構造だと思う。固定式の窓は呆れるほど広くて、街の景色がよく見える。車内は空調が効いており、極めて快適である。 けれども、その少ない座席が半分も埋まらないうちに、電車は静かに走り出した。ちーっというモーターの唸りが聞こえるが、車内の静かさは旧来のチンチン電車とは比較にならない。 欧州の技術を導入したという新しい路面電車は、想像以上に独創的な乗り物であった。 |
万葉線 高岡駅前→米島口 |
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高岡駅前の狭い通りを静々と走った電車は、大きく右に曲がって、広い通りに入る。今度は、クルマと同じ速度で快走するが、相変わらず揺れは少なく、車内は静かなままだ。 路面に白線が引かれただけの停留所がいくつも現れるが、乗降客はいない。電車は多少減速するものの、お客がいないとわかった時点で、再び加速していく。 例によって、私はカブリツキで前方展望を楽しんでいたが、さっきから不思議に思うことがある。右折のクルマや道路を横断する自転車があるたびに、電車は小刻みな加減速を繰り返すのだが、運転士の腕はほとんど動かない。いったい、どうやって電車を操縦しているのであろうか。 見れば、彼の右手は運転席横にある小さなレバーに添えられている。これが電車の"アクセル"とブレーキを兼ねたコントロールレバーらしいのだが、そのストロークが極めて小さいので、ほとんど指先の動きだけで電車を運転できるのである。 市民病院前という停留所で幾人かの客が下車する。今日は休日、病院は休診のはずだが、入院中の爺ちゃん・婆ちゃんを見舞いに行く人が少なからずいるのであろうか。そう言えば、我が職場も病棟は休日のほうが賑やかだったりする。 10時45分、電車は車両基地のある米島口に着く。三角屋根の検修庫に旧型の路面電車が休んでいるのが見えた。 |