城崎温泉→大阪 : 特急はまかぜ |
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城崎温泉に進入するはまかぜ6号
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1日に3つもの湯を堪能した私は、再び城崎温泉駅に向かった。今日最後の愉しみは、特急はまかぜ号乗車である。 特急はまかぜ号は、大阪と兵庫県北部を播但線経由で結ぶ特急列車で、1日3往復が運転されている。播但線の一部と城崎以遠の山陰本線が非電化であるため、今でも、そして、唯一、181系気動車が充当されている。 181系気動車は、1968年のデビュー。強力なエンジンを搭載し、中央西線の特急しなの、奥羽本線のつばさ、伯備線のやくも、そして、高松と高知・松山を結ぶ特急列車として、本州・四国の山岳路線で活躍した。名車キハ82の流れを汲むその顔つきは、今でも新鮮感を失っていない。 定刻よりやや遅れて、特急はまかぜ6号が入線してきた。 車内放送を録音する準備をしているうちに、床下のエンジンがひときわ高い唸りをあげ、列車は力強く動きだす。程なく女性車掌による放送が始まった。列車が和田山から播但線に入り、福知山には行かないことが強調される。 豊岡では、予想外に多くの乗車があった。私が乗る指定席車は、座席の半分位が埋まる。 はまかぜ6号の約13分前には、新大阪行きの特急北近畿18号が走っている。こちらは、距離の短い福知山線経由の電車であり、大阪着は19時47分。常識的に考えて、大阪に行くのであれば、はまかぜ6号よりも北近畿18号を選ぶと思うのだが...。 豊岡を出たところで、少し早い夕食を摂ることにした。かにずし(920円)。KTRからJRに乗り換える際、あらかじめ買ってあった豊岡の駅弁である。 和田山から、列車は播但線に乗り入れる。右に左に、はまかぜ6号は身体を大きく捩らせ、生野越えの勾配を登っていく。カーブにあわあせて、めまぐるしく変わるエンジン音。ローカル線に乗り入れたことを実感した。 サミットの生野駅で小休止した列車は、今度は足取りも軽く速度を上げていく。軽やかなジョイント音が、酩酊状態にある私を夢の世界へと誘ったのだろう。程なく私は眠りに落ちた。 次に意識が戻ったとき、列車は後ろ向きに走っていた。夢の中まで聞こえていたジョイント音はなく、かーっというロングレール特有の走行音が響いている。はまかぜ6号は姫路を過ぎて、山陽本線の太いレールの上を疾走していたのであった。 明石到着のアナウンスが流れると、多くの人が立ち上がり、網棚から荷物を下ろしはじめた。これまたちょっと予想外の出来事であった。 明石を出た列車の右手には、明石海峡大橋(1998年開通)が見えてくる。全長3,911m、中央支間長1,991m、目下"世界一"のつり橋であることはご承知のとおりだ。この橋、当初は鉄道・道路併用橋として計画されていたことを知る人は少ない。明石海峡大橋とペアになる大鳴門橋(1985年開通)は、将来線路を敷設することが可能な設計となっているが、ここに列車が走る日は、(残念ながら)たぶん来ないと思う。 国道2号線や山陽電鉄と並んで須磨海岸を走ったあと、列車は神戸の市街地に入る。神戸と三宮でもたくさんの人が降りた。 播但線を経由して大阪と但馬を結ぶ特急にどんな存在意義があるのだろうと思っていたが、これで謎が解けたように思う。特急はまかぜは、大阪ではなく、神戸・姫路と但馬を結ぶ、兵庫県内特急列車なのである。大阪を始発・終着としているのは、神戸駅や三宮駅が、列車の始発・終着駅としては不適当な構造であるからに過ぎないのではないか。 三宮を出た特急はまかぜ6号は、終点大阪に向かって、方向別複々線の線路を駆けていく。途切れることなく続く阪神間の町並み。酒造会社のネオンサインや家々の明かりが、瞬く間に後方に流れ去る。 回送同然の客室内に、181系特有のターボサウンドが高らかに響いた。 |