MOTOROLA GP68 簡易マニュアル

 GP68は、米国Motorola社が発展途上国向けに製品化したと思われる業務用ハンディトランシーバである。

 GP68には、VHFモデル(136〜174MHz)とUHFモデルがあり、後者は403〜433MHz対応のものと430〜470MHz対応の2種類がラインナップされている。周波数を見ればわかるとおり、VHFモデルと430〜470MHzバージョンのUHFモデルは、そのまま日本においてアマチュア無線機として使用できる。

 日本の業務用FM無線機の操作部は、ボリウムつまみとスケルチつまみだけのシンプルなものが多い。消防・電力・ガス事業向けの無線機では、これにチャネル切り替えつまみがつくが、いずれにせよ、機能テンコ盛りのアマチュア用のものとは、その外観は大いに異なる。
 他方、米国をはじめとする諸外国では、自営無線回線と有線電話回線を接続する、いわゆるフォーンパッチが普及しているため、DTMFを送信するためのテンキーが装備されている場合が少なくない。私が所有しているGP68も、このキーパッドがあり、一見したところでは、日本のアマチュア無線用トランシーバとそっくりである。

 GP68をアマチュアバンドで実際に使ってみると、操作性に関してはまったく問題がない。ただ、感度は若干劣るような印象である。40MHzもの帯域を無調整で使える仕様だから、そのへんは目をつぶらないといけないのかも知れない。

 通常、Motorola社の業務用通信機は、専用のプログラミングソフトウエア(RSS)を用いて、運用する周波数などを設定する。ところが、このGP68は、プリント基板上のチップ抵抗(R417)を除去することによって、一般的なアマチュア無線機同様、周波数等を自由に設定できるモード("Dealer Programming Mode")を選択できるようになる。無線機ディーラーが、"Dealer Programming Mode"にしたGP68で顧客ごとに必要な設定を行ったあと、クローン機能を使って、実際に販売する無線機にその設定をコピーすることを想定しているようだ。十分な機材がない発展途上国のディーラーを配慮した設計と言えるが、これは、GP68をアマチュア無線機として使用する上で非常に都合が良い。

 GP68の一般ユーザー向けマニュアルには、"Dealer Programming Mode"についての記載はないので、改造(R417除去)を施したGP68について、その操作の要点を示すことにする。

 なお、以下の文中、下線太字の表記は、そのボタンを長押しすることを示す。"ボリウムつまみを右に回して電源を入れる"なぞという分かり切ったことは記載していない。

チップ抵抗(R417)


R417(*1)
(画像をクリックすると、拡大します。)

Dealer Programming Mode切り替え

 [PTT]・[スケルチ開放]・[SCAN]の3つのボタンを同時に押しながら電源を入れることにより、Dealer Programming Modeになる。
 [PTT]・[スケルチ開放]・[Light]の3つのボタンを同時に押しながら電源を入れることにより、通常のユーザーモードに戻る。(R417を除去しない場合と同じ動作)

Dealer Programming Mode基本操作

モード切り替え

 [X]を押すごとに、MHzモードとメモリモードが切り替わる。MHzモード時は、LCDに周波数が表示される。メモリモード時は、"ch.05"のごとく、メモリ番号が表示される。(なお、未改造のGP68では、MHzモードは選択できず、メモリモードのみとなる。) 

スケルチ調整

1) [SQL]
2) セレクタつまみを回して、スケルチレベルを調整する。"Sql.00"(スケルチ開放)〜"Sql.15"までの15段階。

 [スケルチ開放]を押すことによって、一時的にスケルチを開放することができる。

送信出力切り替え

 [LOW]を押すごとに、ローパワー(LCDに"LOW"表示)とハイパワーが切り替わる。

MHzモード

 テンキーを使って周波数を入力するか、セレクタつまみを回して希望の周波数を設定するモード。日本のアマチュア用トランシーバで言えば、"VFOモード"に相当する。[X]を押すごとに、MHzモードとメモリモードが切り替わる。

ステップ切り替え

1) [LOW]
2) LCDに"StEP25"のごとく表示されるので、セレクタつまみを回して、希望の周波数ステップを選択する。
3) [LOW]

セミデュプレクスモード

 [<]を押すごとに、LCDに"+"、"-"、"+-"が表示される。

1) "+"が表示された場合は、送信時、受信周波数より規定周波数(シフト幅)だけ高い周波数で送信される。
2) "-"が表示された場合は、送信時、受信周波数より規定周波数(シフト幅)だけ低い周波数で送信される。
3) "+-"が表示された場合、あらかじめ設定された任意の周波数で送信される。
4) "+"・"-"・"+-"のいずれも表示されない時は、シンプレックスモード。

※シフト幅の変更は、ユーザーが任意に設定することはできないようだ。私のGP68(UHFモデル)は、入手時点でシフト幅5MHzとなっており、日本の430MHz帯レピータにピッタリであった。同じく手持ちのGP68(VHFモデル)は、シフト幅600KHz。米国のレピータに合わせた仕様だが、こちらは日本国内では使い道がない。

送信周波数設定(セミデュプレクスモード)

1) [<]
2) "+-"が点滅する。
3) テンキーもしくはセレクタつまみを回して、送信周波数を設定する。

メモリモード

 GP68には、Ch01〜Ch20まで、20チャネルの周波数メモリがある。未改造のGP68ではこのメモリモード以外は選択できないから、最大20波切り替え式の業務用無線機ということになる。[X]を押すごとに、MHzモードとメモリモードが切り替わる。

メモリの呼び出し

 セレクタつまみを回して、希望のメモリチャネルを呼び出す。

周波数の記憶

1) MHzモードで、希望の周波数・シフト幅・トーンスケルチを設定する。
2) [Light]
3) "PCh.05"のごとく、メモリ番号が表示されるので、セレクタつまみを回して、記憶させたいメモリチャネルを選ぶ。
4) [Light]

※上書き記憶が可能である。記憶を消去する場合は、特別プログラミングモードで行う。

メモリ内容のMHzモードへのコピー

1) メモリモードで、希望のメモリを呼び出す。
2) [Light]
3) セレクタつまみを回すことによって、周波数を自由に変更できる。

トーンスケルチ/ディジタルコードスケルチ

 Motorola社では、いわゆるトーンスケルチ(TSQ)のことを"Tone Private-Line"(PL)、ディジタルコードスケルチ(DCS)のことを"Digital Private-Line"(DPL)と呼ぶようである。何やら特殊な規格のように思われるが、日本製のアマチュア無線機・業務用無線機に装備されているものと互換性がある。トーンスケルチ・ディジタルコードスケルチの詳細は、こちらを参照。

スケルチ方式の変更

 [SIG]を押すたびに、通常のキャリアスケルチ(CSQ)とTSQ/DCSの切り替えができる。TSQ/DCSが機能している時は、LCDに"CTCSS"と表示される。なお、"CTCSS"が点滅しているときは、"Voice Selective Call"モードになっている。これは、DTMFを利用した一種の選択呼び出し機能のようである。

トーンスケルチ/デジタルコードスケルチ周波数設定

1) [SQL]
2) セレクタつまみを回して、"rPL.000"〜"rPL.126"の中から希望の周波数(コード)を選択する。トーンスケルチ時は、この周波数の信号が乗った電波を受信したときのみ、スケルチが開く。
3) [SQL]
4) ダイヤルつまみを回して、"tPL.000"〜"tPL.126"の中から、希望の周波数(コード)を選択する。送信時は、この周波数の低周波信号が重畳される。

 001〜042はTSQ、043〜126はDCSである。また、000を設定すると、通常のキャリアスケルチになる。日本のアマチュアレピータアクセスに必要な88.5Hzのトーンを重畳させるには、"rPL.000"・"tPL.009"とすればよいことがわかる。("rPL.009"とすると、受信時にTSQが働き、ダウンリンクの信号が聞こえない!)


fig 1 : トーンスケルチ対照表(*2)


fig 2 : ディジタルコードスケルチ対照表(*2)

特別プログラミングモード(SPM)

 設定を変更する頻度が低い項目は、特別プログラミングモード(Special Programming Mode)で一括して設定する。[>]を押しながら電源を投入することにより、SPMになる。

 SPMにおいて設定可能な項目は、つぎのとおり。

 セレクタつまみを回して、上記の設定項目を選択する。つぎに、[<]または[>]を押して希望の選択肢を選ぶ。

 SPMの設定項目のうち、一般的な使用に必要なものは下記のとおりである。

周波数メモリ消去(ErA.Chn)

 [<]または[>]を押すと、"ECh.**"(**は01〜20)と表示されるので、消去したいメモリチャネルを呼び出す。[Light]を押すと消去が実行される。なお、表示が点滅するチャネルは、消去済みである。

タイムアウトタイマ設定(tot.***)

 連続送信時間を分単位で指定する。PTTボタンを押し続けても、指定した時間が過ぎると送信を中止する。1〜10もしくはOFFに設定可能である。

電池種別設定(bt-NiC/bt-ALn)

 使用する電池を指定する。NiCd電池を使用する場合は"bt-NiC"、アルカリ乾電池を使用する場合は"bt-ALn"とする。

バッテリーセーバー設定(bS-OFF/bS-Nor/bS-Enh)

 間欠受信をするか否かを設定する。OFF、Normal、Enhancedの3段階に設定可能。

モデル名対応表

 GP68のタイプとモデル名の対応は下記のとおり。(*3)
 送受信周波数、ナロー/ワイドの別、キーパッドの有無により、つぎのように細分化される。どうやら300MHz帯対応のモデルも存在するようである。国内でアマチュア無線機として使用する目的なら、黄色のモデルが最適である。 

Type Model Description
VHF

136-174MHz

AZP93VNA00H2AA 1-5W, 12.5KHz, non-keypad
AZP93VNB00H2AA 1-5W, 12.5KHz, keypad
AZP93VNC00H2AA 1-5W, 12.5KHz, non-keypad, no antenna
AZP93VND00H2AA 1-5W, 12.5KHz, keypad, no antenna
AZP93VNA20H2AA 1-5W, 20/25KHz, non-keypad
AZP93VNB20H2AA 1-5W, 20/25KHz, keypad
AZP93VNC20H2AA 1-5W, 20/25KHz, non-keypad, no antenna
AZP93VND20H2AA 1-5W, 20/25KHz, keypad, no antenna
VHF

336-368MHz

AZP93VNA00H8AA 1-5W, 12.5KHz, non-keypad
AZP93VNB00H8AA 1-5W, 12.5KHz, keypad
AZP93VNA20H8AA 1-5W, 20/25KHz, non-keypad
AZP93VNB20H8AA 1-5W, 20/25KHz, keypad
UHF

403-433MHz

AZP94VNA00H1AA 1-4W, 12.5KHz, non-keypad
AZP94VNB00H1AA 1-4W, 12.5KHz, keypad
AZP94VNA20H1AA 1-4W, 20/25KHz, non-keypad
AZP94VNB20H1AA 1-4W, 20/25KHz, keypad
UHF

430-470MHz

AZP94VNA00H1AA 1-4W, 12.5KHz, non-keypad
AZP94VNB00H1AA 1-4W, 12.5KHz, keypad
AZP94VNA20H1AA 1-4W, 20/25KHz, non-keypad
AZP94VNB20H1AA 1-4W, 20/25KHz, keypad

内部を観察

 

分解手順

 バッテリケースを外すと、2本の+ネジがある。

 これを緩めて、ダイキャスト製の背部パネルを少し持ち上げながら下方に引き抜く。

 

内部(UHFモデル)

 内部は、高周波回路を中心とする基板(左)と低周波回路及びコントロール回路を中心とする基板(右)の2枚で構成されている。いずれも両面基板で、チップ部品が多用されている。2枚の基板を結ぶシート状のケーブルが抜けると復旧に苦労するので、これには手を触れないほうがいい。

 ひとむかし前の無線機だと、基板上にコイルやトリマコンデンサがたくさん並んでいて、測定器とにらめっこしながら調整したものである。けれども、GP68の基板には、一見して調整を要すると思われるパーツは何もない。

A:終段トランジスタ(MRF5007)
B:アンテナコネクタ
C:受信第1ミキサIC
D:受信IF IC
E:受信第2IFフィルタ
F:受信/送信AF IC
G:VCO(シールドケース内)
H:基準発振水晶(16.8MHz)

アンテナについて

 GP68に限らず、Motorola社のハンディ機には、ネジ式の特殊なアンテナコネクタが使われている。外部アンテナを接続する場合は、ネジ(オス)と一般的なBNC(メス)を変換するアダプタ(Motorola型番:HLN8262)を使うと良い。


アンテナコネクタの構造
手前は、変換アダプタ(HLN8262)

免許申請について

 GP68は、アマチュアバンドのほか、その周辺の業務用周波数でも電波を発射できる大変危険な(?)無線機である。不法局の疑いをかけられぬように、アマチュア局の無線設備として、きちんと許可を得てから持ち歩くようにしたい。技術基準適合証明取得機種(技適機種)ではないので、自作無線機扱いでTSSの保証認定を受ける必要がある。

機 種 VHFモデル
(AZP93VNB)
UHFモデル
(AZP94VNB)
発射可能な電波の形式、周波数の範囲 F3 144MHz帯 F3 430MHz帯
変調の方式 リアクタンス変調 リアクタンス変調
定格出力 5W 4W
終段管 名称個数 MRF5007×1 MRF5007×1
終段管 電圧 7.5V 7.5V
送信機系統図(PDFファイル) GP68VHF.pdf GP68UHF.pdf

その他の情報

(*1):GP68プログラミングマニュアルより引用。

(*2):AP73のユーザーズマニュアルより引用。

(*3):Motorola社 GP60 Series Portable Radios Service Manual(6804370J41-D)より引用。

     
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警 告

 この無線機をアマチュア用として使用する場合、総務大臣の免許が必要です。また、この無線機は、日本のアマチュアバンドに隣接する業務用の周波数でも電波を発射することができます。不用意に操作すると、業務局に妨害を与え、電波法に基づいて処罰されます。

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2002年4月10日 制作 2005年11月10日 修正