VX-7には、トーンスケルチ(Tone Squelch, 米国では、Continuous Tone Coded Squelch System = CTCSSと呼ぶほうが一般的なようである)とディジタルコードスケルチ(Digital Code Squelch = DCS)が標準装備されている。
CTCSSでは、音声帯域(約300〜約3,000Hz)以下のトーン(低周波信号)を音声に重畳して送信する。受信側では、このトーンを検出した場合に限り、スケルチを開く仕組みだ。特定の相手方とのみ交信する場合に非常に便利で、業務用無線でも広く利用されている。
CTCSSは、セットモードの"TSQ/DCS/DTMF:1 スケルチタイプ"で設定する。
OFF:トーンの送出・スケルチ共OFF。
TONE:トーンの送出を行うが、受信時はトーンがなくてもスケルチを開く。
TONE SQL:トーンの送出を行うと共に、受信時はトーンがある電波に限ってスケルチを開く。
DCS:ディジタルコードスケルチ(後述)
国内のアマチュアレピータにアクセスするときは、88.5Hzのトーンを重畳しなければならないのはご存知のとおりである。
VX-7の場合、設定できるトーンの周波数は、以下の50種類(単位:Hz)である。
67.0 | 69.3 | 71.9 | 74.4 | 77.0 | 79.7 | 82.5 | 85.4 | 88.5 | 91.5 |
94.8 | 97.4 | 100.0 | 103.5 | 107.2 | 110.9 | 114.8 | 118.8 | 123.0 | 127.3 |
131.8 | 136.5 | 141.3 | 146.2 | 151.4 | 156.7 | 159.8 | 162.2 | 165.5 | 167.9 |
171.3 | 173.8 | 177.3 | 179.9 | 183.5 | 186.2 | 189.9 | 192.8 | 196.6 | 199.5 |
203.5 | 206.5 | 210.7 | 218.1 | 225.7 | 229.1 | 233.6 | 241.8 | 250.3 | 254.1 |
トーンの周波数は、セットモードの"TSQ/DCS/DTMF:2 トーン設定"で選択する。
[BAND]を押すと、ディスプレイに表示されるトーン周波数に下線が現れる。この状態で、[MAIN]もしくは[SUB]を押下することで、トーン周波数を可変できる。また、[1]を押すと、トーン周波数が順次変化し、受信した信号のトーンと一致した場合に停止する。ただし、受信信号がなくなると再びトーン周波数が変化するので、注意が必要である。
大阪など、一部の都市の複信方式タクシー無線では、いわゆる"逆トーンスケルチ"が使用されていることがある。
最近は、コンピュータによる配車システムを使うタクシー会社が多くなった。街中を走る車両の位置や状態は、音声通話用の無線機を使って、2400bps程度のMSK(Minimum
Shift Keying)信号でデータ伝送される。このMSK信号を人間が聴くと、"びぎゃっ"という非常に耳障りな音になる。
そこで、データ伝送を行うときは特定のトーンを重畳しておき、音声通話を行うときのみ、トーンの送信をやめる方式をとっている。この場合、タクシーに搭載された無線機は、トーンを検出した場合に限り、スケルチを閉じる動作を行う。
このようなシステムの電波を、VX-7をはじめ、一般的なCTCSSつきの無線機でワッチすると、"データ信号だけ聞こえて、肝心の音声だけが聞こえない"という状態になるから、注意が必要だ。(VX-7は、"逆トーンスケルチ"には対応していない。)
一般に、CTCSSでは、一定のヒステリシス特性を持たせることが多い。つまり、一旦トーンを検出してスケルチを開いたら、今度はトーンを検出できなくなってもしばらくの間はスケルチを開いておくのである。多少のノイズが混じっても、CTCSSによる交信を確実に行うための仕組みだが、相手方が送信をやめてもしばらくの間はスケルチが開いたままになってしまうため、送受信切り替えのたびに耳障りなノイズが出ることになる。そこで、一般的には、通常のノイズスケルチを併用することが多い。
これに対して、Motorolaなどの米国の無線機は、同じCTCSSといっても、reverse burst対応となっていることが多いそうだ。reverse burstというのは、PTTボタンを離したあと、数百msecの間、位相を180度ずらせたトーンを送信する仕組みである。受信側では、トーンの位相が変った時点でスケルチを閉じる。搬送波がなくなるまえにオーディオアンプをoffにしてしまうから、ノイズはまったくといっていい程出ない。この場合、ノイズスケルチの併用はほとんど必要ない。手持ちのMotorola社製の無線機(reverse burst対応)どうしで試してみたが、まるで有線電話のような快適さであった。
なお、我が国の無線機は、reverse burst対応のものはほとんどないようである。(VX-7も非対応のようである)
CTCSSと同じ目的で開発された機構だが、その名のとおり、ディジタル信号を用いるところがCTCSSと異なる。識別のための情報は、CTCSSと同様、音声帯域以下を利用して送出される。
なお、同様の機構(アナログFMの音声帯域以下を使って低速のディジタル伝送を行うもの)は、NTT大容量方式のアナログ自動車電話(1999年3月31日限りで全廃)でも用いられており、ハンドオーバーの予告や送信出力の制御などに使われていた。
DCS信号は、12bitの識別情報(DCSコード)に誤り訂正符号などを付加した全23bitで構成され、134.3bit/secのNRZ(Non-Return-Zero)フォーマットで搬送波を直接FM変調している。シンボル"1"では周波数を高いほうに変移させ、"0"では低くするのが標準らしいが、中には逆の変調を採用するメーカーもあるらしい。VX-7では、セットモードの"TSQ/DCS/DTMF:4 DCS位相"をENABLEにすることによって、逆相のDCS信号に対応することができる。なお、DCS信号の変調の最大周波数変移は、音声信号のそれの10〜20%程度だそうである。
図にDCSコード"023"を重畳した場合のbit列を示す。
冒頭の11bitはパリティビットであり、3bitまでの誤り訂正能力がある。続く3bitは"100"で固定されており、最後の9bitがDCSコードである。
PARITY bits | (Fixed) | DCS code | ||||||||||||||||||||
P 11 |
P 10 |
P 9 |
P 8 |
P 7 |
P 6 |
P 5 |
P 4 |
P 3 |
P 2 |
P 1 |
F 3 |
F 2 |
F 1 |
C 9 |
C 8 |
C 7 |
C 6 |
C 5 |
C 4 |
C 3 |
C 2 |
C 1 |
1 | 1 | 1 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 |
(8進表記) | 0 | 2 | 3 |
P1 = C1 + C2 + C3 + C4 + C5
+ C8 P2 = NOT ( C2 + C3 + C4 + C5 + C6 + C9 ) P3 = C1 + C2 + C6 + C7 + C8 P4 = NOT ( C2 + C3 + C7 + C8 + C9 ) P5 = NOT ( C1 + C2 + C5 + C9 ) P6 = NOT ( C1 + C4 + C5 + C6 + C8 ) P7 = C1 + C3 + C4 + C6 + C7 + C8 + C9 P8 = C2 + C4 + C5 + C7 + C8 + C9 P9 = C3 + C5 + C6 + C8 + C9 P10 = NOT ( C4 + C6 + C7 + C9 ) P11 = NOT ( C1 + C2 + C3 + C4 + C7 ) |
CTCSSのトーン周波数に相当するもので、VX-7の場合、設定できるDCSコードは、以下の104種類である。
023 | 025 | 026 | 031 | 032 | 036 | 043 | 047 | 051 | 053 |
054 | 065 | 071 | 072 | 073 | 074 | 114 | 115 | 116 | 122 |
125 | 131 | 132 | 134 | 143 | 145 | 152 | 155 | 156 | 162 |
165 | 172 | 174 | 205 | 212 | 223 | 225 | 226 | 243 | 244 |
245 | 246 | 251 | 252 | 255 | 261 | 263 | 265 | 266 | 271 |
274 | 306 | 311 | 315 | 325 | 331 | 332 | 343 | 346 | 351 |
356 | 364 | 365 | 371 | 411 | 412 | 413 | 423 | 431 | 432 |
445 | 446 | 452 | 454 | 455 | 462 | 464 | 465 | 466 | 503 |
506 | 516 | 523 | 526 | 532 | 546 | 565 | 606 | 612 | 624 |
627 | 631 | 632 | 654 | 662 | 664 | 703 | 712 | 723 | 731 |
732 | 734 | 743 | 754 |
DCSコードは、セットモードの"TSQ/DCS/DTMF:3 DCSコード設定"で選択する。
選択の方法はCTCSSの場合と同じ。同様に[1]を押すことによって、受信信号に含まれるDCSコードを検出することができる。
DCSを使用する場合、送信中、前述の23bitのディジタル信号が繰り返し送出される。PTTが離された場合、DCS信号に代えて、turn off codeを約200msec送出したあと、搬送波の送信をやめる。
turn off codeはCTCSSのreverse burstに相当する信号で、268.6bit/secのNRZフォーマットの"101010...."の繰り返しである。VX-7は、turn off codeには対応しており、PTTを離してから実際に送信を止めるまで、わずかのタイムラグがあるのがわかるであろう。また、受信時には、turn off codeを検出した時点でスケルチを閉じるから、送受切り替え時のノイズはまったく出ない。
DCSについては、カタログ等で"キレがいい"と謳われることがあるが、そのヒミツは、このturn off codeにあるのである。
DCSは、3bit×3=9bitの識別信号を伝送する能力がある。2の9乗、つまり、8進表記で"000"から"777"まで、全部で512種類の情報を送れるわけだが、実際には上記のごとく、104種類しか使われない。
DCS信号は、その最初と最後を示す信号(ヘッダ・トレーラ)がなく、PTTを押している間は繰り返し送信される。これは、(送話の)途中からであっても、短時間で信号を確実に受信するための方策だが、そのかわり、bit列をシフトすると、他のものに一致するコードは使えない。その他、検出時に他のコードと紛らわしいものなどを除くので、最終的に一定の信頼性をもって使えるコードが前述の104種類というわけである。
セットモードの"TSQ/DCS/DTMF:6 スプリットトーン"で選択できる。OFFが初期値だが、ONにすると、"TSQ/DCS/DTMF:1 スケルチタイプ"に、つぎの選択肢が加わる。
D CODE:送信時のみDCS信号を送信。受信時は、DCS信号がなくてもスケルチが開く。
TONE DC:送信時はCTCSSのトーンを重畳し、受信時はDCSを用いる。
DC TONE:送信時はDCS信号を重畳し、受信時はCTCSSを用いる。
少なくとも日本国内では、こんな妙な動作の必要性があるとは思えないが....。なお、CTCSSもしくはDCSを使用中、送受信で異なるトーン or DCSコードを用いる設定はできない。
CTCSSやDCSを使用すると、快適な待ち受け受信ができるが、"電波を発射する前に他の通信に妨害を与えないことを確かめねばならない"規定が免除されるわけではないので、注意が必要である。
本稿の作成にあたっては、つぎのサイトを参考にした。本稿に示した図表は、下記サイトの図表を一部改変したうえで引用したものである。
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2002年8月25日 制作 2002年8月28日 修正