高速道路の通行料一覧表を眺めているうちに、不思議な現象が起きていることに気がついた。
一例をあげると、大津IC-木之本ICは92.6Km、通行料(普通車、以下同じ)は2,550円となっている。これに対して、大津IC-三田西ICは、84.5Kmしかないのに2,700円である。より"近い"ICへの通行料のほうが、高いのだ。
いったい、日本道路公団(JH)管轄の高速道路の通行料は、いかなる根拠をもって算出されるのであろうか。
基本ルール |
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JH管轄の高速道路は、原則として全国一律の基準で算出される。その基準とは、次のとおりである。
( 単価(円/Km) × 距離(Km) ) + ターミナルチャージ(円)
単価は、普通車の場合、24.60円/Kmである。中型車は1.2倍、大型車は1.65倍、特大車は2.75倍になる。逆に軽自動車等は0.8倍だ。
ターミナルチャージは、インターチェンジや料金所の利用料に相当するもので、これは車種を問わず、一律150円となっている。
この式で算出された額に1.05を掛けて、消費税込みの金額を求める。これを更に24捨25入して、50円単位の金額に丸めたものが、利用者が支払うべき通行料(税込み)となる。
■例1 : 大津IC-木之本IC(92.6Km)の通行料 24.60 × 92.6 + 150 = 2,277.96 + 150 = 2,427.96 これに消費税率を掛ける。 2,427.96 × 1.05 = 2,549.358 24捨25入する。すなわち、この場合は49.358円の端数は切り上げて50円単位にする。したがって、通行料は2,550円である。 |
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長距離逓減制 |
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基本ルールのままだと、長距離を利用した場合、通行料が著しく高くなってしまう。
そこで、100Kmを超え200Kmまでの部分は25%、200Kmを超える部分は30%の割引がある。長距離利用者に対して、距離あたりの"単価"を割り引く制度は一般的なもので、旧国鉄の制度をそのまま引き継いだJRの運賃にも同様なルールがある。
■例2 : 大津IC-沼津IC(371.0Km)の通行料 最初の100Kmぶんには、割り引きがない。 24.60 × 100.0 = 2,460 ……… a 次の100Kmぶん、つまり、100Kmから200Kmまでの間に相当する通行料は、25%引きになる。 24.60 × 100.0 × 0.75 = 1,845 ……… b 200Kmを超える部分、つまり、171.0Kmぶんは、30%割り引きである。 24.60 × 171.0 × 0.7 = 2,944.62 ……… c a〜cにターミナルチャージを加える。 2,460 + 1,845 + 2,944.62 + 150 = 7,399.62 これに消費税率を乗じる。 7,399.62 × 1.05 = 7,769.601 これを50円単位に丸めた7,750円が正規通行料である。 |
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特別料金 |
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以上のルールだけでは、冒頭に書いた"逆転現象"は説明できない。じつは、全国一律の単価が適用されない区間が存在するのである。
まず最初は、"特別区間"と呼ばれる特定IC間である。全国に3か所存在するので、それをお目にかける。
名 称 | 区 間 | "単価"(普通車) |
関門特別区間 | 下関IC - 門司港IC | 64.00円/Km |
恵那山特別区間 | 園原IC - 中津川IC | 39.36円/Km |
関越特別区間 | 水上IC - 湯沢IC | 39.36円/Km |
全国の高速道路地図が多少なりとも頭に入っている方なら、この表を見てピンと来るものがあったと思う。
下関IC-門司港IC間には、1973年に完成した関門橋がある。長さ1,068mのつり橋で、完成当時は東洋一の規模を誇った。関門トンネルと共に本州と九州を結ぶ自動車交通上の重責を担っている。
園原IC-中津川IC間には、1975年に開通した恵那山トンネル(8,489m)がある。
水上IC-湯沢IC間はもちろん関越トンネルである。1985年に完成した下り線用は10,926m、1991年完成の上り線用は11,055mあって、目下、道路トンネルとしては日本最長である。
これらの区間(長大橋や長大トンネル)は、建設に特別高い経費がかかったこと、また、受益が大きいことなどを考慮して、距離あたりの通行料の"単価"が割り増しになっている。
つぎは、"大都市近郊区間"である。
ETC関連の割り引きルールの中で登場した名前だが、じつは下表に示す大都市近郊区間では、通行料の"単価"が2割増しになっているのだ(29.52円/Km)。
(首都圏) | (近畿圏) |
川口IC - 加須IC 練馬IC - 東松山IC 三郷IC - 谷田部IC 湾岸市川IC - 成田IC 成田IC - 新空港IC 東京IC - 厚木IC |
大津IC - 西宮IC 中国吹田IC - 西宮北IC |
JHによれば、用地買収に格段のコストがかかったこと、受益が大きいことなどを考慮して、このような仕組みになっているのだという。
私見を述べさせていただくと、この大都市近郊区間という制度は、建設コストに見合う負担をお願いするというよりも、『取れるところから取る』という意味合いが大きいのではないかと思う。
たとえば、大津IC-西宮ICのうち、大津ICから尼崎ICまでの区間は、1963年7月16日に開通した我が国最初の高速道路の一部である。仮に用地費が高額であったとしても、恐らくは過去42年間(!!)に支払われた"割り増し分"で十分にお釣りが来るのではないだろうか。(注1)
JHは、とっくに償還が終わった、つまり、建設コストぶんの通行料収入が得られたはずの名神や東名の利用者から通行料を徴収する理由として、『全国の高速道路網は一体のものであるから』という説明をしている。つまり、全国の高速道路網をひとつのものとして捉えて、その建設費全額を償還し終えるまで、すべての区間から通行料をいただくということである。
こうした説明に納得がいかない人も少なからずいるようだが、私はじゅうぶん合理的な理屈であると思っている。全国的な高速自動車交通網を建設することは国の責務であるから、そのネットワークを利用する人から、平等に料金を払ってもらうことは理にかなっていると思う。
しかし、それゆえに、特定区間の利用者にだけ、特別な料金を負担させることは承服できない。仮に建設費が特別高額であった区間の利用者から特別料金を徴収する場合であっても、個々の区間ごとに収支を計算し、"特別高額であった建設費"の償却を終えたならば、速やかに特別料金の徴収を中止すべきであると思う。
話が横道にそれてしまった。
要するに、この"大都市近郊区間"の存在こそが、冒頭の"逆転現象"の根源なのである。試しに、大津IC-三田西ICの通行料を計算してみよう。
■例3 : 大津IC-三田西IC(84.5Km)の通行料 大津ICから三田西ICまでのうち、西宮北ICまでの69.6Kmは、大都市近郊区間である。従って、"単価"は29.52円/Kmだ。 29.52 × 69.6 = 2,054.592 ……… a 西宮北ICから三田西ICまでの14.9Kmは大都市近郊区間ではないので、"全国標準"の"単価"、つまり、24.60円/Kmが適用される。 24.60 × 14.9 = 366.54 ……… b aとbにターミナルチャージを加える。 2,054.592 + 366.54 + 150 = 2,571.132 消費税の処理をする。 2,571.132 × 1.05 = 2,699.6886 端数処理をして、2,700円。 |
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なお、沖縄自動車道許田IC-石川IC間は、20.98円/Kmの"特別単価"となっている。これは、恐らくは沖縄の特殊事情に配慮したものと思われる。このほか、全国的な高速道路網に直接接続しない道東自動車道と山形自動車道には、料金が特別に割り引きされている区間がある。
注1 : 全国一律の"単価"、そして、大都市近郊区間の制度ができたのは、1972年10月1日から。それまでは、路線ごとに通行料を決めていた。
参考リンク
公団の分割・株式会社化について2005年10月1日付けで、道路関係4公団が分割・株式会社化されました。 今後、利用者の利便性を高める様々な施策が行われると思われますが、当面は、(利用者の立場では)公団時代と何ら変わるところがありません。 本文中では次のように読み替えてください。
(2005年10月13日) |
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制作:2005年3月31日 修正:2005年10月13日