晩秋の東北旅行---五能線のリゾート列車(1)


『リゾートしらかみ』(秋田駅)


座席車


コンパートメント


バスケットボール投げ体験(能代駅)


『ノスタルジックビュートレイン』
(深浦駅, 1990年12月)

五能線『リゾートしらかみ』

新発想の体験観光型列車

 秋田で1時間余りの待ち合わせのあと、今度は五能線の『リゾートしらかみ』に乗る。

 『リゾートしらかみ』は、1997年、従来の『ノスタルジックビュートレイン』に代わって登場した観光列車である。単に列車を走らせるのみならず、地元自治体と提携して、主な停車駅ごとに体験型のイベントをセットしているところが目新しい。

 平日の列車であるから、ほとんど貸切同然であろうと思っていたが、秋田駅では案外多くの乗客が列車の入線を待っていた。"東京弁"を喋る客が多い。秋田新幹線と合わせて、首都圏ではさかんに宣伝されているのであろう。けれども、JR西日本管内でのPRは皆無で、実は私も、時刻表を見て初めて知ったというありさまである。

 9時47分、定員の2割位の乗客を乗せて、『リゾートしらかみ』は秋田を発った。

 『リゾートしらかみ』は、ローカル線用に製造された40系気動車の改造である。しかし、出入り口デッキにその面影が残る以外は、どこから見ても新造車にしか見えない。
 1号車と4号車は、座席車である。運転台直後にはミニロビーが設けられ、カブリツキの展望を愉しめる。2・3号車はコンパートメント車。通路が片側に寄っているから、開放型B寝台の1区画程度のスペースがある。この、広い一室の定員はわずかに4名。恐ろしく豪華かつ贅沢な車両だ。
 特急グリーン車として走らせても見劣りしないが、あくまでも普通列車であるから、乗車券と1枚310円の指定席券だけで乗ることができる。

 八郎潟干拓地の果てしなく続く水田を眺めながら、列車は東能代へと向かう。車内販売のワゴンが来たので、ホットコーヒーを注文。特急列車でも車内販売がないいま、JR東日本秋田支社の『リゾートしらかみ』への力の入れようは尋常ではないと思った。

 そう言えば、さっきからスーツ姿のJR東日本社員が、車内を回ってイベントのPRや観光案内をしている。極めて異例のことである。JR東日本秋田支社、そして、五能線沿線の町村にとって、『リゾートしらかみ』は、ローカル線の生き残りをかけた最後の戦略商品であるに違いない。

 東能代では、秋田からの特急『かもしか1号』と接続をとり、いよいよ五能線に乗り入れる。

 最初の停車駅・能代では、いきなりミニイベントがある。
 5分間の停車中に、何とプラットホームでバスケットボール投げをするのである。イベントを演出するのは、赤線入りの制帽を被った助役以下、能代駅の駅員。製服姿の駅員が、プラットホームで玉入れの手伝いをするとは、一昔前なら考えられなかったことである。けれども、厳しい経営環境に置かれた五能線が生き延びるには、こんな涙ぐましい努力をしてまで、観光客を呼び込む以外にないのであろう。笑顔で記念品を配付する駅員氏の胸中はいかがなものであろうかと思った。

 能代から先、鯵ケ沢まで、五能線は日本海の海岸に沿って走る。平地は少なく、白神山地が海岸近くにまで迫っている。寂寥感溢れる車窓風景は、日本の鉄道の中でも屈指のものとされている。しかし、逆に言えば、そんな淋しいところに観光客を呼び込むのは容易なことではない。

 11時42分、十二湖着。『リゾートしらかみ』の大半の乗客が下車する。中年男女の団体は、路線バスで十二湖方面に向かうようだが、私はサンタランド白神に行くことにした。

 

続く

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2001年11月10日 制作 
2001年11月21日 修正