湯巡りトロッコとスイッチバックの旅


上り列車とのすれちがい(郡家駅)


車内放送中


智頭急行の前方展望


智頭駅で


スーパーいなば6号と交換(用瀬駅)


倉吉駅で

上郡→倉吉

 上郡では、智頭急行の乗務員に列車が引き継がれる。若い男性運転士と女性車掌だ。

 発車に先立って、運転士はいくつかのスイッチを操作した。これで、車両は"JRモード"から"智頭急行モード"になるわけだ。

 "智頭急行モード"のひとつが制御付き振り子機能である。
 スーパーはくとの車両には、車体を傾斜させてより高速でカーブを通過できる台車が装備されているが、その機能が活かされるのは智頭急行線内だけなのである。

 上郡を出発した列車は、高架橋で山陽本線上り線を跨ぐ。右に大きく曲がって進路を北にとると、床下のエンジンが唸り、ぐんぐん加速しはじめた。

 目の前にカーブが迫る。山陽本線ではあまり見かけないやや急な曲線だが、列車は速度を落とさない。カーブの直前で、ふわっと身体が持ち上げられる感触があり、フロントガラスごしの前方展望が大きく傾斜するのがわかる。カーブを出ると、こんどはすっと前方展望が水平に戻る。面白い!!

 10分ほどで、最初の停車駅・佐用に到着。JR姫新線との接続駅で、両線のホームが並んではいるが、線路はつながっていない。数名の降車客がいたが、列車を待っていた人はいなかった。

 智頭急行線は、1966年、旧国鉄智頭線として着工された56.1Kmの路線である。1980年、国鉄再建計画のあおりをうけて、その9割以上が完成したところで工事中断。そのまま"未成線"として放置されるかと思われたが、地元3県が主体の第三セクターによって工事が再開され、1994年12月に開業している。真新しい線路に較べて、トンネルや法面等の土木構造物が古びているのは、竣工後、長い間放置されていたからなのだろう。

 地元が新規投資をしてまで智頭急行を開業させたのは、大阪-鳥取間での大幅な時間短縮が見込めたからである。従来、4時間以上を要したこの区間が、新線の開業によってわずか2時間半となった。
 現在では、岡山-鳥取間の特急スーパーいなばを含めて1日12往復の特急列車が走り、鳥取県にとってなくてはならない鉄道となっている。経営的にも成功のようで、智頭急行は第三セクター鉄道全37社のうち、たった5社しかない黒字会社のひとつである。(2002年度、国土交通省)

 13時03分、大原着。智頭急行線の主要駅で、普通列車用の車両を管理する基地があるが、乗降はわずかである。

 智頭を過ぎたところで、おっさん4人組がカブリツキにやってきた。一服するために禁煙の指定席から移ってきたようだが、『おおっ』と声を上げて、その前方展望に釘付けになる。
 『えらい豪勢な運転席やなあ』、『こんなんやったら、指定なんか取るんやなかった』なぞと話し合っている。鉄道に特別興味がある訳ではなさそうだが、乗り物の運転席や前方展望というのは、広くオトコの興味を惹くものらしい。タバコを吸い終えても彼らは動かず、結局、鳥取直前までいた。

 13時19分、智頭着。智頭急行の旅はわずか40分足らずで終わり、列車は再びJRの線路を走る。智頭急行開業の直前まで、タブレットと腕木式信号機が現役であった因美線である。
 線路は旧式で、がたん、ごとんというジョイント音が聞こえる。とたんにローカル線に乗り入れたという実感が湧いてきた。昨今の幹線は大半がロングレールとなっていて、昔ながらの"鉄道の音"を聞く機会は少ない。

 用瀬でスーパーいなば6号、郡家ではスーパーはくと8号と交換し、13時49分、鳥取着。

 鳥取では、乗客の大半が下車し、スーパーはくと5号はまるで回送列車のようになる。整備係員が乗り込み、車内清掃を始めた。客のいない座席は回転させて、早くも折り返しの準備である。

 列車は、山陰本線を西下する。古風な石積みポータルのトンネルがあったりするが、"本線"と名乗るだけあって、乗り心地は悪くない。

 14時24分、終着倉吉に到着。

続く

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2003年10月16日 制作 2003年10月20日 修正