大阪渡船つあー(4)


天保山渡船場
(橋脚のたもとの小さな小屋)

浪速貨物駅
 甚兵衛渡船を降り、正面の道路をまっすぐ進むと、踏切が見えてくる。
 この線路が、境川信号場から貨物専用の浪速駅まで伸びる大阪環状線の支線である。レール踏面が鈍く光っており、わずかながらも列車が運転されていることがわかる。踏切を渡って最初の交差点を左折、浪速駅方向に向かう。周囲はちょっと古い倉庫が建ち並んでいて、人の姿はもちろん、行き交う車も見かけない。アクション映画の撃ち合いシーンが似合いそうな場所である。
 真新しい市バスの車庫を過ぎると、『浪速駅三号門』と書かれた板切れがフェンスにくくり付けられている。ここが浪速駅の正門である。
 駅構内には、多数の貨車が留置されている。もう、長い間動いた気配がない。更に奥まったところでは、バーナーで焼き切られたタンク体であるとか、車輪、台枠の残骸が散らばっている。どうやらここは西日本地区の貨車の解体場となっているようである。このあたりは、鉄くずから鋼鉄を造る電炉メーカーが多いから、これらの貨車はやがて溶鉱炉の藻くずと消えるのであろう。貨車が製鉄原料を積んでやってくるのではなく、貨車そのものが製鉄原料となるためにやってくる駅---それが浪速駅なのであった。

貨物支線の踏切から境川方を望む
(港区福崎一丁目)
浪速駅

浪速駅構内(1) 浪速駅構内(2)

 『高齢貨車解体策』---私の仕事用パソコンは、"こうれいかしゃかいたいさく"(=高齢化社会対策)と入力すると、たまにこう変換してくれる。合掌...---の現場を見物したあと、更に通りを歩く。目の前に中央部がやや盛り上がった道路橋が見えてくる。天保山運河を跨ぐ新福崎橋だ。
 以前は、浪速駅からの貨物引き込み線がこの運河を渡って、更に先の突堤まで伸びていた。線路跡は塞がれて堤防の一部となっているが、そこだけコンクリートの色が白っぽいので、すぐにわかる。
 かつて、海路で輸入された貨物は、埠頭で貨車に積み替えられ、内陸部に輸送された。けれども、そんな人手のかかる荷役作業はとうの昔に姿を消して、現在の海上輸送の主役はコンテナとなっている。対岸に大阪港コンテナ埠頭が見える。巨大なコンテナ船が接岸しており、色とりどりの海上コンテナが積み重ねられている。大型機械で陸揚げされたコンテナは、高速道路で目的地に運ばれるから、コンテナ埠頭にJRの線路は敷かれていない。
 海岸通りを天保山に向かって歩く。目の前には、阪神高速湾岸線の港大橋が見える。大阪港をひと跨ぎにする二階建て構造の橋である。
 途中、少し左に入ったところが、臨時有料駐車場になっていて、駐車場と天保山地区を結ぶ無料のシャトルバスが運転されている。駐車場の周囲は何もないから、お客は事実上すべて駐車場利用者である。私のような無料渡船つあーの旅行者が利用可能かどうかは判然としないが、駐車場利用者以外の乗車を拒む表示はなかったので、有り難く便乗させていただくことにした。冷房が効いたバスは、やはり快適かつ楽ちんであった。

 バスは10分足らずで海遊館に着く。当然のことながら、相当の人出である。今日はここには用はないから、記念にトイレだけを借用して天保山公園に向かった。

海遊館の無料シャトルバス 天保山渡船

天保山渡船(右岸側のりば)から海遊館を見る 桜島駅と建設中のUSJ

天保山渡船
 天保山渡船の乗り場は、天保山大橋の橋脚の真下にあった。
 この渡船場は、ガイドブック等で紹介されているので、カップルや家族連れの姿が多く見える。就役している渡船も、千歳渡船と同じやや大型の船であった。これから渡るのは安治川であるが、川幅が広いから気持ちがいい。天保山大橋や海遊館を見ながらのちょっとした船旅であった。
 対岸の桜島地区では、大型テーマパークの建設が急ピッチで進んでいる。ユニバーサルスタジオジャパン(USJ)と言い、大阪市の臨港地区再開発事業の目玉である。主たるアクセス手段となるJR桜島線は、昨年線路が移設され、桜島駅も新築された。来春、USJが開業すれば、安治川を挟んで対岸にある海遊館との観光客の往来も更に増えることが予想されるが、ちょっとレトロな雰囲気の天保山渡船はそのまま運行を続けるのであろうか、あるいは、新鋭船を投入して有料の交通機関となるのであろうか。ちょっと気になることではある。
 真新しい桜島駅では、かなりくたびれた103系が客を待っていた。
 桜島駅を出た電車は、半地下式の新線を走る。海岸沿いや渓谷沿いの鉄道で見かける落石被いのような構造で、安治川側から光が差し込んでいて、USJ側はコンクリートの壁となっている。土地の有効利用のほかに、USJの入場者から線路を隠してしまう役目も兼ねているのだろう。その"目隠し被い"の出口に、未完成の"駅"がある。来春、USJの玄関口となる新駅である。
 やがて、線路右手にコンテナやらタンク車が見えてくると、列車は安治川に停車する。安治川駅は、大阪地区の車扱貨物の拠点で、石油製品や化学薬品を積んだ貨車が発着している。安治川から路地裏みたいなところをしばらく走り、西九条着。環状線内回り電車に乗り換え、新今宮。更に日本橋に向かう。いつもの電気街の風景を見たところで、私の渡船つあーは終わった。

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2000.5.7制作 2000.5.8訂補