大阪渡船つあー(2)


千本松渡船『しおかぜ』 右後ろは千本松大橋のループ

千本松渡船
 府道大阪港八尾線に突き当たったところで右折すると、目前に巨大なループ橋が見えてくる。千本松大橋である。巨大な橋脚に隠れるように放置自転車保管場があり、その脇の細い道を入っていったところが千本松渡船の乗り場であった。5〜6人の客が渡船を待っている。
 程なく対岸から渡船が到着、十数人の乗客(大半が自転車持ち込みである)と共に乗り込む。ここは、川幅があるから、ややゆったりとした気分の"船旅"だ。と言っても、乗船時間は1分と少し。あっと言う間にまたまた木津川右岸に着く。乗客の大半は自転車に乗ってクモの子を散らすように去ってしまい、誰もいなくなった渡船場で物珍しげに周囲を見回している人間は私だけである。連休の真っ最中、渡船を趣味で乗り歩く物好きが一人位はいると予想していたが、タウンガイド等で紹介されている天保山渡船(後述)を除けば、同好の士は見かけなかった。

千本松渡船 左岸のりば 千本松渡船 左岸のりば
対岸から撮影した写真。左上は千本松大橋。

 このまま、次の渡船で戻ってもいいのだけれど、趣向を変えて千本松大橋を渡ってみることにした。千本松大橋は、木津川を往来する船舶の通行を妨げないよう、橋の中央部は水面上約40mとなっている。その高度を稼ぐために、自動車は2周半のループを回る。歩行者用の階段・エレベーターの類いは見当たらないから、人間も自動車とともに長い距離を歩かねばならない。
 もっとも、今日は天気が良く、空気も乾いているから、案外快適なハイキングである。橋の中央部からは、キタやミナミの高層ビル群や通天閣がすぐ近くに見える。そして、その後ろには、金剛から生駒へと続く山並みがすこし霞んで背景のように見えている。東京新宿の高層ビルから見る関東平野は、人工物が果てしなく地表を覆っている感じだが、こうして見ると、関西は自然豊かな山々に優しく包み込まれた場所であると思う。
 景色を眺めていたら、足下を渡船が滑っていくのが見えた。最初は、『橋があるのになぜ渡船?』と思ったけれど、こうして実際に徒歩で千本松大橋を渡ってみると、その理由がよくわかる。長い坂道を上って対岸に渡るためには、私の足でも20分はゆうにかかる。渡船は15分ヘッドの運航だから、次の船を待ったほうが早く対岸に着けるのである。渡船の存在は、言わば歩道橋直下に設けられた横断歩道といったところであろうか。

 クルマの往来が多い新なにわ筋を徒歩で南下、ファミリーレストランで昼食を摂りつつ、次の木津川渡船までの道のりを検討する。木津川の最も下流に位置する木津川渡船は、他と異なり、大阪市港湾局の管理下にある。運航間隔もデータイムは45分に延びるから、これまでみたいな行き当たりばったりではとんでもない待ちぼうけを食らうおそれがある。
 結局、私はタクシーで木津川渡船場に向かうことにした。食事のすぐあとで身体を動かすのは良くない。
 流しのタクシーはすぐに拾うことができたが、初老の運転手は渡船場のありかを知らなかった。地図を見せると、老眼鏡をかけてじっと眺めている。最初は妙な客だと思ってたのかも知れないが、こちらの旅行の目的を話すと、『ははあ、そういう楽しみ方もあるんでんな。』と言い、突然愛想が良くなった。『ケイサツさんがおらんかったら、よろしいでっしゃろ』と右折禁止の交差点を強引に曲がり、渡船場着。料金は千円と少しであった。

木津川渡船 左岸のりば 木津川渡船 『松丸』

木津川渡船
 木津川渡船場は、鉄筋コンクリート製の立派な建物であった。対岸にはやはり2隻の渡船が係留されているのが見える。海が近いから川幅は広く、かすかに潮の匂いがする。
 12時50分、対岸から1隻の船がこちらに向かってきた。下船する客は誰もおらず、すぐに乗り込む。『松丸』という今年3月に建造されたばかりの新しい船である。これまで乗ってきた各渡船とあまり変わらないが、車イス用のスペースと固定金具がついているのが目新しい。足下でディーゼルエンジンが唸りをあげ、1分強で対岸に着いた。

 船町二丁目は工場の密集地であった。『中山製鋼所』、『日立造船』等々、一部上場の大企業の工場であるから、それなりに手入れも行き届いている。これまで歩いてきた町工場の密集地とはかなり趣が異なる。街路樹の新緑をめでながら通りを歩くと、市バスの操車場があり、これを右に曲がったところが船町渡船場であった。

木津川渡船から船町渡船への道
(大正区船町二丁目)
船町渡船
船町側のりばから鶴町側を見る。

船町渡船

 船町渡船は、木津川運河を横断する渡し舟である。ここも対岸までの距離はごくわずかで、船は大きなS字を描いて航行する。"航路"の長さは、最短距離の数倍はあるのではないか。乗客は、我々のほかにマウンテンバイクに乗った青年がひとり。あまり生活臭がないけれど、さりとて私のごとく、写真を撮ったり地図を見たりの落ち着きのない様子でもない。いったい、彼は何の目的で渡船に乗っているのであろうか。彼は船が対岸に着くなり、脱兎のごとく私の視界から走り去ってしまった。

船町渡船 鶴町四丁目行き市バス

 渡船場まえの通りをまっすぐ歩くと、程なく大正通りに突き当たる。ちょっと疲れてきたので、鶴町一丁目バス停から鶴町四丁目行き市バスに乗車。終点は巨大な市営住宅団地となっていて、新緑鮮やかな公園では、子供たちが走り回っていた。

続く


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2000.5.7制作 2000.5.8訂補