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■大畑-人吉 以前私は、クルマでこの駅に来たことがある。 約10年の歳月を経て、再び私は同じ場所にやってきた。季節はまったく異なるけれど、駅舎は前と変らず、まるで、ここだけ時間が止まっていたかのようでもあった。 私は、旅先で、以前とすっかり変ってしまった駅を見るにつけ、その間の時の流れを痛感する。けれども、それ以上に時を意識するのが、何年もまえと変らぬ様子でひっそりと存在している、この大畑のような駅を見たときである。その間、自分は何と怠惰な方向に流れ、齢を重ねてしまったのかと自責の念に駆られることも少なくない。 私が感慨に耽っている間にも、『しんぺい』号の乗客たちは盛んに記念撮影なぞをしている。 大畑駅を出た列車は、人吉盆地に向かって更に勾配を駆け下る。古風なトラス橋を渡って、人吉着。『しんぺい』号の団体客は、観光バスに乗り込んで、いずれかに走り去ってしまったようであった。 ■人吉の栗めし時刻表によれば、人吉駅では、駅弁が販売されている。『特急が止まらぬ駅の駅弁』ファンの私としては、是非とも試食せねばならない。 昨今の拠点駅の駅弁は、遠く離れた弁当工場で大量生産されることが多い。要するに、駅弁と言えども、実態はコンビニ弁当と同じである。これに対して、『特急が止まらぬ駅の駅弁』は、駅にほど近い、駅前食堂みたいな店で、細々と手作りされている場合がほとんどである。 時刻は午後5時を過ぎており、予想通り駅売店に駅弁はなかった。そこで、改札を出て駅前広場を見回すと、目論み通り左手に駅弁屋があり、辛うじて目当ての駅弁を入手できた。 人吉からは、ステンレス製の気動車で八代に向かう。車内は、新幹線の廃品を再用したと思われる転換クロスシートが並んでいて、駅弁を試食するには適当な環境である。ただし、テーブルがないので、弁当は膝の上に置かねばならない。 パッケージの写真を撮ってから、包みを開く。栗をかたどった容器に、栗ご飯とオカズが詰められている。大量生産の規格弁当にはない素朴な味で、好感が持てた。 18時15分、八代着。跨線橋を渡り、ホームに待機している熊本行き電車に乗る。817系という、パンダのような顔つきをした最新鋭電車である。 八代を出た新型電車は、あっという間に120Km/hまで加速する。よく整備された線路と相まって、乗り心地は上々だ。 工事中の九州新幹線の高架を見ながら、熊本着。 |
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2002年11月30日 制作 2003年7月19日 修正