奥紀州に"トロッコ電車"に乗って入りにいく温泉がある----こんな情報を耳にした私は、早速クルマで遠征してきました。
"トロッコ電車"が運転されているのは、三重県南牟婁郡紀和町にある湯ノ口温泉。
紀和町は、三重・奈良・和歌山3県の県境が入り交じる山あいの町で、かつては銅鉱石を産出する紀州鉱山が操業していました。紀州鉱山の歴史は古く、奈良東大寺の大仏建立にあたって、大量の銅が供出されたという記録があるそうです。しかし、近代鉱山としての歴史は新しく、1934年、石原産業の手により鉱石の産出を開始しています。戦中・戦後には、国内屈指の鉱山として栄華を極めましたが、1970年代以降の円高の中で徐々に衰退していったのは国内鉱山に共通の歴史。紀州鉱山も、1978年を最後に廃鉱となりました。
鉱山なきあと、町おこしの期待を担って開設されたのが湯ノ口温泉です。
温泉自体の歴史は古く、14世紀のはじめ、金山試掘に際して発見されたといいます。地域住民の湯治場として親しまれましたが、昭和初期の紀州鉱山操業開始とともにその湯脈は失われました。それから半世紀あまりを経た1979年、通産省の資源探索ボーリングの最中、地下1,300mから再び温泉が湧出。第三セクターの手により宿泊・入浴施設が運営されています。"トロッコ電車"は、湯ノ口温泉への入浴客輸送手段として、旧紀州鉱山の鉱石運搬施設を1989に復活させたもの。軌間610mm、蓄電池式機関車が5両の客車(人車)を牽引し、温泉の玄関にあたる"入鹿温泉駅"と入浴施設がある"湯ノ口温泉駅"の間約1.1Kmを10分弱で結んでいます。
線路の大半は2本の長いトンネルで、怪しげな急勾配・急カーブはありませんが、鉱山鉄道の雰囲気は十二分に愉しめます。私が現地を訪れたのは4月なかばの休日ですが、浴衣姿の入湯客こそ見かけるものの、トロッコ自体を目当てにやってきたと思われる鉄ちゃんは皆無で、非常に落ち着いた雰囲気でした。(2001年4月15日訪問)
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■紀和町鉱山資料館 まずは資料館で紀州鉱山の歴史をお勉強。 紀和町を紹介する17分の映画を見たあと(当然、貸し切り上映!)、館内の展示品を見学。 鉱山で使われた道具や鉱山の暮らしぶりを伝える資料等、この種の資料館の定番展示のほかに、熊野床と呼ばれる独自の精練技術、地域の農林業の紹介etc、内容の充実ぶりは目を見張るものがある。 バテロコ、ローダ、パンタ付きの電気機関車等、鉄ちゃんの興味を引く展示物も数多くありました。 ※所 在 地:三重県南牟婁郡紀和町板谷110-1 |
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■入鹿温泉駅 "トロッコ電車"の起点(?)にあたる駅。思ったより立派な建物だけれど、勤務員は出札掛兼運転士兼車掌兼構内掛のおじさん一人だけ。 構内には、2面2線の相対式プラットホームのほか、鉄骨スレート葺きの"機関庫"が2棟。背後のトンネルは旧選鉱場に続いているらしいが、線路は"休止"状態。詳細は観察できなかったけど、全金属製の客車が留置されてました。 運賃は、湯ノ口温泉の入浴券とセットで往復400円。トロッコだけに乗りたい人は、片道100円でOK。温泉共々、もうちょっと商売っ気を出した価格設定にしてもいいように思うんですが、その素朴さが魅力のひとつかも知れません。 運転時刻はつぎのとおりです。(2001年4月15日、現地時刻表で確認) 入鹿温泉駅(瀞流荘)発 湯ノ口温泉駅(湯元)発 |
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■蓄電池式機関車 5両の客車を引っ張るバッテリーロコ。
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■客車 車体は窓枠や引き戸を含めてすべて木製で、斜めの筋交いが印象的。1989年の運転再開に際して、以前の坑内人車を忠実に再現したもの。 |
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2001年4月19日制作