私鉄特急乗り継いで...

立山黒部アルペンルート


立山トロリーバス(室堂駅)


車内


運転席


トンネル内部


架線と集電装置(大観峰駅)


『売れ行きぱっとしないなあ....』(大観峰駅)


立山ロープウエイ(黒部平駅から)

立山トロリーバス(立山黒部貫光・室堂〜大観峰)

 室堂からは、トロリーバスに乗って立山連峰の下をくぐり抜ける。

 トロリーバスは、日本語で無軌条電車と言い、レールのない電車である。
 レールのない電車なんてちょっと想像しにくいであろうが、電気で動くバスと思えばいい。電気自動車との違いは、動力源の電力を架線から取り入れて走ることである。車両にエネルギーを蓄える機構を持たないから、架線のないところは走れない。動ける範囲が架線によって制約されるので、法律上は鉄道の仲間に入っている。
 レール(軌道)がいらないので建設費が安く、1950年代には路面電車の代替として東京や大阪などいくつかの大都市でさかんに導入された。けれども、架線の制約から逃れることができず、輸送力は一般のバスと同等であったから、1970年前後に車両の更新時期が来ると一斉に姿を消した。
 環境保護が叫ばれる現在、もういちど見直されてもいい乗り物だと思うが、今のところ日本で走っているいるのは、立山黒部アルペンルートの2路線のみである。

 さて、これから乗る立山トロリーバスは、1996年に再登場した新しい路線である。1971年のトンネル開通以来、ここでは通常のディーゼルバスが使用されてきたが、排気ガスの処理が問題となって、トロリーバスの導入となったそうだ。

 改札口を通って、乗り場に向かう。駅は完全地下式の構造で、薄暗いホームで待ちかまえているのは、通常の路線バスそのものであった。ただ、エンジンがついていないからアイドリングの必要はなく、停車中は何の音もしない。
 天井を見上げると、架線---と言うより、金属製のフレームに貼られた電車線が見える。普通の鉄道は、架線から集めた電気をレールに流す仕組みだが、トロリーバスの場合、+と−の2条の架線が必要だ。車体の天井には2本の集電棒(トロリーポール)がついていて、それぞれ架線に接触している。

 発車間際に運転士が乗り込んでくる。
 運転席には、これまた普通のバスと同じように大きなハンドルがある。足元はアクセルとブレーキの2つのペダルがあるだけだ。計器盤は、普通の鉄道車両と同じようなメーターが並んでいて、ここだけ"電車"の匂いがする。

 発車ベルが鳴って、出発。3台のバスが一団となって動き出す。床下から、最新型の電車と同じVVVFサウンドが聞こえる。鉄輪とレールの音は聞こえない。聴覚的には、ゴムタイヤを使った札幌市の地下鉄と似ていると思った。室堂を出ると、トンネルはすぐに下り勾配になっている。抑速電気制動がついているようで、ういーんという制動音が響いてくる。

 トンネル断面はバス1台がやっと通れる程度で、中間地点に待避所があり、対向車が待っていた。
 レールがないから、転てつ機はない。進路が地上側で一義的に決まる普通鉄道と違って、トロリーバスはハンドルを切った方向に進む。ただ、走行路の分岐・合流部では極端に速度を落としている。車体は好きなほうに動かすことはできても、トロリーポールの進行方向は地上で決めてやらねばならない。異線進入が起こると大変である。

 約10分で室堂に到着。トロリーバスの後退は難しいから、ループを描いてUターンする仕組みである。ゆっくり写真を撮りたかったが、おおぜいの観光客に押し流されるようにロープウエイの乗り場に向かった。

立山ロープウエイ(立山黒部貫光・大観峰〜黒部平)

 大観峰からは、目前に北アルプスの山並みが、眼下には黒部湖の蒼い湖面が望める----はずであったが、ガスがたちこめて何も見えない。

 同じトロリーバスに乗り合わせたツアー客は、ここで観光の予定だったらしく、ガイドが『残念ながら何も見えませんが、ここで予定通り20分の自由時間を取ります。』なぞと説明している。すべては計画通りにしか動けない団体の悲しさである。

 その点、個人旅行の私は気ままなもので、景色が見えない大観峰には何の用もないから、さっさとロープウエイを待つ行列に並ぶ。
 改札口の脇では、制服・制帽の駅員が『ここだけの販売、名物こんやく鉄砲はいかがっすかあ!』と声を張り上げている。暇を持て余すツアー客に必死の売り込みである。
 余剰人員の活用策として、鉄道員が物販店員に化ける例は少なくないが、制服を着たまま売り子を兼務する例は見たことがない。

 立山ロープウエイは、大観峰(標高2,316m)と黒部平(標高1,828m)の間を結ぶ全長1,710mの路線である。このロープウエイの特徴は、支柱が1本もないこと。つまり、1,710mがワンスパンとなっている。
 環境保護のためとPRされているが、付近は名だたる豪雪地帯であるから、雪崩の影響を避ける目的もあるのではないかと思う。

 ロープウエイ特有の、尻の穴が締まるような感触を感じながら、黒部平へと下った。

続く


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2001年10月2日 制作 
2001年10月3日 訂補