私鉄特急乗り継いで...

立山黒部アルペンルート


名古屋鉄道キハ8500系 特急北アルプス(高山駅)


新名古屋駅で


特急北アルプス入線(新名古屋駅)


車内の様子


検札(名鉄線内で)


併結作業(美濃太田)


名古屋コーチンとりめし


その中身。
濃厚な味のとりめしの上に、シンプルな具が乗っている。
美味かった。


高山駅で


高山駅で

名鉄北アルプス

駅弁調達

 名古屋では、40分余りの乗り継ぎ余裕がある。近鉄名古屋駅と名鉄新名古屋駅は、専用の乗り換え改札で結ばれているが、私は一旦改札を出てJR名古屋駅のコンコースに向かった。

 昨春、駅舎が超高層ビルに改築されたJR名古屋駅構内は、以前と様相が一変している。古くさい構内食堂や土産物店は姿を消し、しゃれた雑貨店や喫茶店が目立つ。駅が、旅行者のための施設から、都市とその近郊に住む人の集う場所に変わってきていることを実感する。
 駅弁売り場は、無論、改装でしわ寄せを喰った施設のひとつである。以前はコンコースの真ん中に大きな売り場があったが、見あたらない。長距離客の多くは新幹線利用のはず....とめぼしをつけて、新幹線ホームの下に行ったら、こぢんまりとした駅弁売り場があった。さすがに昼食時とあって、各種の駅弁が山積みされている。『名古屋コーチンとりめし』と缶ビールを買って、再び新名古屋駅へと戻った。

新名古屋駅

 名鉄新名古屋駅もまた、近鉄名古屋駅と並行するように設けられた地下駅である。近鉄のほうは行き止まり式のターミナル駅だが、豊橋と岐阜を結ぶ名鉄は、3面2線の中間駅型の構造だ。追い越しはできず、後続列車が迫っているから、どの列車も最小限の停車時間で次々と出発していく。

 上下線に挟まれた島式ホームが有料特急乗り場である。
 既に北アルプスの自由席を目指す人たちが長い列を作っている。指定券を持つ人は、行列を作る必要はない。その代わり、列車の進入を撮影すべく、カメラやビデオを手に列車の到着をいまや遅しと待っている。

 『2番線に特急北アルプス高山行きがまいりります。白線の内側までお下がりくださいっ!!』

 自動音声の合間に、駅員の肉声放送が響く。

 豊橋方に2つのヘッドライトの見えた。お目当ての列車の入線だ。自由席の行列が乱れる。カメラマンのストロボが閃光する。
 私は指定券を持っているから、ディジタルカメラを手に撮影組の末席にいる。一応のマナーを心得ているつもりだから、ストロボは焚かない。しかし、あとにも先にもこの列車に乗るのは一生で一度きりと思うと、緊張と感動で手先が震える。急いで数カットを撮影したが、失敗写真になっている可能性大である。しかし、北アルプス号の新名古屋滞留時間はわずかしかないから、急いで2号車の乗車口に走った。

新名古屋〜美濃太田

 私が飛び乗ると同時に折り戸が閉まり、列車が動きだした。

 北アルプスに充当されるキハ8500型気動車は、JR東海のキハ85系を手本に1991年に製作された比較的新しい車両である。軽やかで力強い走りが自慢だが、加速中はエンジンの振動が伝わり、淡い排気が車体にまとわりつくように流れ去るのが見える。やはり、電車とはかなり趣が違う。
 普段、名鉄電車に乗っている人なら、極めて非日常的で新鮮な感触なのだろうが、私自身はキハ85系には何度も乗っており、かつ、この区間を電車で移動した経験がないから、あまり奇異な感じはしない。

 先頭の1号車自由席は、通路まで立錐の余地もない。かぶりつき乗車は、早々に断念した。2号車・3号車は指定席車で、無論、こちらも満席である。
 私の席は、2号車14番B席。通路側の席だ。車窓風景はあまり愉しめないが、車内の様子は観察できる。

 ざっと見たところ、乗客の約2/3は鉄ちゃん、残り1/3はたまたまこの列車に乗りあわせた行楽客のように見える。前者は、車内をウロウロしたり、感慨深げに車窓を眺めているのが多い。後者は、さっそく飲み物を手に、観光ガイドブックを広げたりしている。

 鉄ちゃん・行楽の異夢同床組もいる。私の3列ほど前に座った家族連れだ。
 私と同年代の父親は、家族を座席に案内し、皆の荷物を網だなに上げ、子供に菓子を与え、妻に何やら言い残すと、カメラ片手にさっそく車内探検に出かけてしまった。
 おそらく彼は、『今度の週末は、家族で温泉に行こう!!』なぞという台詞で、家族全員を北アルプスに乗せたに違いない。幼い子供は不思議な目つきで、妻は『毎度のことね...』という表情で、喜々として動き回る一家の主を眺めている。

 名鉄乗務員が検札が来た。若い車掌は、汗だくになって切符をチェックをしている。新聞報道によると、ふだん、この列車の乗客数は数十人程度だという。
 列車は、名鉄線内の主要駅に止まるが、乗り込む客はほとんどない。今日は始発から満席であるから当然であるが、名鉄線内での乗降が皆無に等しいということは、この列車の存在意義はほとんどないということでもある。名古屋駅からは、本家・JR東海のワイドビューひだ号が走っていて、所要時間も名鉄経由とほぼ同じである。

 犬山公園を出ると、列車は極低速でトラス橋を渡る。
 かつて、鉄道道路併用橋として有名であった犬山橋である。近年、下流側に道路専用橋が完成し、犬山橋は鉄道専用となった。現在は、鉄道橋としての改装工事の真っ最中である。路盤が剥がされ、枕木のすき間から長良川の流れが見える。

 車窓には、カメラを構える人の姿がますます目立つようになった。列車はこれから専用の渡り線に進み、JR高山本線に乗り入れるのである。

 車内に異様な緊張が走る。皆、息をこらして、渡り線への乗り入れの瞬間を待っているのがわかる。立ち上がって、ビデオを回す人多数。

 がくんと車体が揺れて、列車は左に曲がった。今にも止まりそうな速度である。ぎぎぎぎぎと、線路が軋む音がする。恐らく、老朽化した急曲線で、とんでもない速度制限がかかっているに違いない。やがて列車は、路地裏みたいなところで止まってしまった。何のアナウンスもないから脱線でもしたのかと思ったが、これは単に停止信号にひっかかったためらしい。
 程なく列車は動き出す。高山本線への合流の様子を捉えようと、こちらにもおびただしい数のカメラマンがいた。1日1回のシャッターチャンスが過ぎて、みな、ほっと安堵の表情でこちらを眺めている。

 高山本線に乗り入れた列車は、突然速度を上げ、美濃太田に向かって快走する。貨物側線がある坂祝を通過、大きく右に曲がって、12時26分、美濃太田着。

美濃太田〜高山

 美濃太田到着直前、右手の引き上げ線に乗客を乗せたままのキハ85系気動車が見えた。これから併結するワイドビューひだ7号である。11時43分、北アルプスより3分早く名古屋を出たこの列車は、岐阜でスイッチバックしたのち、12時21分に既にこの駅に着いている。

 私は遅れて到着する北アルプスが、ワイドビューひだの後部に併結されるものだとばかり思っていたが、現実は逆であった。恐らく、誘導信号機がないので、入換えのかたちでないと併結作業ができないのだろう。

 美濃太田に到着すると、乗客は一斉に下車する。ホームに併結作業を見守る幾重もの人垣ができた。
 さっき、汗だくになって検札をしていた名鉄の若い車掌が、JRの年配車掌にノリホを手渡し、さっと挙手の礼をして去っていく。白い手袋が、眩しかった。

 程なく岐阜方からワイドビューひだがそろそろと近づいて、一旦停止。微速で前進し、連結器が噛みあった。慌ただしくホロが伸ばされ、ジャンパホースが接続される。

 車掌が、乗客に車内に戻るように促すが、かなりの数の乗客は、依然として列車にカメラを向けている。何のことない、新名古屋出発時に乗っていた多くの旅客は、運賃・料金が格安な美濃太田までの試乗組であったのだ。

 美濃太田を出ると、車内には空席も見られるようになった。車内の緊張が一気に解けて、普通の行楽列車に戻った感じだ。くだんの父親も、良きパパに戻って、家族で弁当を広げ始めた。私も、名古屋で買った弁当を食べることにする。

 美濃太田から先の車窓風景は、ちょうど2年前に急行たかやまに乗車したときと同じであった。あの時と同じように、初秋の日差しを浴びて、山々は静かに息を潜めている。

 13時28分、下呂着。乗客の半数が下車する。
 列車は、いよいよ細くなった飛騨川の流れに逆らって、分水嶺を目指す。一昨年、キハ58系に乗ったときは、エンジンを目一杯吹かしながら走った場所だが、強力なエンジンを2基搭載したキハ8500には軽い仕事のようだ。逆にパワーがあり過ぎるのか、カーブの手前ではわざわざ減速することさえあった。

 14時12分、終点高山着。

 列車の先頭部では、記念撮影の人垣ができている。純粋な鉄道ファンよりも、コンパクトカメラ片手の家族連れなどが多い。
 車中で、一見観光客風に見受けられた人たちも、実はかくれ鉄ちゃんであったようだ。

続く


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2001年10月2日 制作 
2001年10月3日 訂補