2003年10月 東海道新幹線

 去る20日、新しい時刻表を買ってきた。2003年10月のダイヤ改正号である。

 今回のダイヤ改正の目玉は、東海道新幹線の"のぞみ"の大増発。これまで、新幹線の代名詞でもあった"ひかり"は完全に主役の座から降りることになる。大げさに言えば、1964年10月1日の東海道新幹線開業以来の、抜本的なダイヤ大改正なのだ。

 高速ののぞみを大増発できた最大の理由は、東海道新幹線を走る車両がすべて270Km/h対応になったことがある。
 駅という"点"でしか追い抜きができない鉄道で、高速・高密度運転を行うためには、優等(急行)列車の最高速度を上げるのみならず、鈍行(各停)列車の性能を向上することが必須である。鈍行列車の足が遅いと、後続の優等列車がつかえてしまって、速度を上げられないからだ。(1950年代半ば、国鉄101系、近鉄ラビットカー、阪神ジェットカー等の高性能電車が、急行ではなく、すべて鈍行(各停)用としてデビューしたのは、決して偶然ではない。)

 JR東海・西日本の両社は、高速・高頻度運転を実現すべく、1992年3月の300系デビューから10年あまりの時間を費やして、220Km/hしか出せない0系・100系を270Km/h対応の300系・500系・700系に置き換えてきた。その、長い長い努力の総仕上げが、今回のダイヤ改正なのである。

 この画期的なダイヤ改正の中身を探ろうと、私は今日一日かけて、列車運転パターン表をこしらえたのでお目にかける。(→こちら)
 そして、下りを例にとって、その"みどころ"を述べてみたい。

列車運転パターン

のぞみ

 のぞみは1時間あたり最大7本運転できる。
 東京駅毎時13分・33分・50分発がレギュラー列車で、乗客の多い時間帯には、必要に応じて03分・26分・46分・53分発が走ることになっている。
 レギュラー列車のうち、原則として33分発が広島行き、53分発が博多行きである。13分発も多くの列車が山陽方面に直通する。13分発と53分発、それにその続行運転とも言える53分発は、品川・新横浜の双方の駅に停車する。東京-名古屋間ノンストップの列車はなくなった。そのため、のぞみの当初のキャッチフレーズである『東京-新大阪2時間半』は、早朝・深夜の規格外ダイヤでしか実現していない。

ひかり

 ひかりは、1時間あたり2本である。誰でも知っているひかりの停車駅--東京・名古屋・京都・新大阪のほか、品川・新横浜・静岡・岐阜羽島・米原がひかりの準レギュラー停車駅となっていて、少なくとも1時間に1本、ひかりが停まる。このほか、小田原・熱海・三島・浜松・豊橋(要するに、昔からある東京-名古屋間の新幹線駅)に"気まぐれ停車"するダイヤが組まれている。
 毎時06分発は、品川に停車後、熱海もしくは三島に停ったあと、静岡で後続ののぞみをやりすごす。品川-静岡間ノンストップの場合は、東京発が10分に繰り下がり、先行のこだまの追い抜き駅が三島になる。静岡を出たあとは、名古屋・京都にしか停まらない。しかし、一部の列車は浜松に停まる。その場合、米原でこだま追い抜きはなくなり、新大阪までこだまのあとを追うことになる。
 他方、36分発のひかりは、新横浜のほか、原則として小田原もしくは豊橋のいずれか一方に停まる。ただ、一部の列車は、新横浜-名古屋間ノンストップで、この場合、東京発は4分遅くなる。名古屋以西は、のぞみ退避を兼ねた"各駅停車"となって、原則的に岡山まで行く。東京始発のひかりは岡山までで、広島行きや博多行きのひかりは設定されていない。
 停車駅が増えたものの、もっとも遅い列車でも東京-新大阪間が3時間03分しか要していないことは絶賛に値する。

こだま

 こだまは1時間3本の運転。ただし、毎時10分発は、現実には夕方ラッシュ時にしか設定されていない不定期運転列車である。
 こだまのうち1本は名古屋止りだが、後続の"各停ひかり"に接続するので、実質的には東京-新大阪間で毎時2本のこだまが運転されているのと同じである。
 ひかりが気まぐれに停車する影響で、ひかりの待避駅が小田原/三島、新富士/静岡、浜松/豊橋で気まぐれに変化する。米原でのひかり退避がなくなることもある。おかげで、熱海と京都の両駅では、ひかりとこだまの到着順序が変わってしまう。
 しかしながら、こうして見ると、こだまの"抜かれっぷり"は見事なものである。とくに、新横浜-名古屋間では、追い抜きのない停車のほうが少ない。が、これだけ抜かれても、東京-新大阪間は、4時間プラスアルファである。車両が高性能な300系以降に統一された効果は大きいと思う。

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 1時間あたりの運転本数は、基本で"3-2-2"(のぞみ-ひかり-こだま)、最大で"7-2-3"である。レギュラー列車は、のぞみ/ひかり/こだま共、ほぼ等間隔(のぞみ20分、ひかり/こだま30分)で運転されることになっていて、"待たずに乗れる"東海道新幹線ならではのダイヤが実現されていると言える。

 静岡停車ひかりのダイヤは、ちょっと面白い仕掛けがあることに気がついた。名古屋で不定期のこだまのスジと重なるので、両者をつなぎあわせると、岐阜羽島・米原停車のひかりとすることも出来るのである。

 非常によく出来た新運転パターンだが、唯一気をつけねばならないことがある。それは、京都駅における上りの静岡停車ひかりとこだまの関係である。静岡停車ひかりは、列車によっては浜松に"気まぐれ停車"するのだが、その場合は新大阪からひかりが先行、そうでない場合はこだまが先行し、米原で追い抜きが起きる。ひかり/こだま共にまったく同じ300系が充当されることが多いから、これは十分留意しないといけない。京都駅8時、10時、12時、14時、16時、17〜19時がひかり先行、9時、11時、13時、15時がこだま先行である。

品川駅

 今回のダイヤ改正のもうひとつの目玉が、品川駅の開業である。限界に近づいた東京駅の列車折り返し能力を補強し、更に多くの列車を走らせるようになると宣伝されてきた。

 けれども、10月施行の新ダイヤを見る限り、品川折り返し列車は設定されていない。ちょっとがっかりである。ただ、今月号の時刻表には、冬の臨時列車は載っていない。年末年始、品川折り返しの列車がきっと登場すると期待したいと思う。

営業施策

 1992年3月のデビュー以来、のぞみはある意味で特別な列車であった。高速運転の対価として、その料金はひかり/こだまより高価であり、自由席は設定されていなかった。

 けれども、のぞみが主体のダイヤとなるに及んで、主力列車が全席指定というのはさすがにマズイと考えたのであろう。今回の改正から、のぞみにも自由席が設けられることになった。
 ところがそうすると、今度は"のぞみ料金"をどうやって徴収するかという問題が発生する。飛行機と異なり、新幹線の場合は列車ごとの改札ではない。車内で全員の検札をしなければ、より安価なひかり/こだま用の自由席特急券で、のぞみの自由席に乗る不心得者を排除できないのである。

 そこで、のぞみの自由席特急料金は、ひかり/こだまのそれと同額とすることになった。
 ここまでやるなら、いっそのこと、"のぞみ特別料金"を全廃する手もある。私は大いに期待した。けれども、そこまで大盤振る舞いすると、新製後10年余でスクラップにしてしまう100系電車への投資が回収できないと考えたのかも知れない。大幅に値下げはしたものの、"のぞみ特別料金"自体は残ることになった。

 具体的に言えば、これまで760円(東京-名古屋間)、970円(東京-新大阪間)であった"のぞみ特別料金"を200円(東京-名古屋間)、300円(東京-新大阪間)に大幅ディスカウントしながらも、その格差は温存することになったのである。

 しかし、利用者の立場からすると、たとえば東京-名古屋間で1時間以上も所要時間が異なるひかり/こだまの料金が同じで、わずか数分の差しかないのぞみ/ひかりのそれに格差があるというのは、少し理解しづらいと思う。
 中には、東京駅12時40分のひかり313号のごとく、東名間の停車駅は新横浜のみ、最新の700系が充当され、所要時間は一部ののぞみより短い1時間42分という例もある。(品川・新横浜双方に停車するのぞみの東名間所要時間は1時間43分)

 また、従来のひかりの自由席車は5両であったが、のぞみのそれは3両しかないのも気掛かりだ。
 悪意をもって考えれば、自由席の旅客をより高価な指定席に誘導する作戦との見方もできるけれど、朝夕ラッシュ時の自由席車は、通路まですし詰め状態で発車することになると思う。

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制作:2003年9月22日 最終修正:2003年9月24日