最新鋭振り子特急『白いかもめ』
885系(長崎駅)
■ぴかぴかの新特急
プレハブ造りの仮設駅舎にもっとも近い2番ホームには、純白の新型特急が停車中であった。
885系『白いかもめ』。この春登場したJR九州の最新鋭特急電車である。車両のエントランス部(あえてデッキとは記さない)には、大きな電照式掲示板があり、長崎を象徴する文字がはめ込まれている。液晶ディスプレイもあり、JR九州の特急列車をPR中だ。
この雰囲気、どこかにあったと思ったら、これはテーマパークのアトラクションエントランスと同じである。これから始まるときめきの時間、わくわくする気持ちを抑えながら待つ場所としての設計がさなれているのである。
客室は、白熱電球に照らされたフローリングの床に、黒い本革シートが並ぶ豪華なインテリアとなっている。運転席との間は、大きなガラスで仕切られているが、前方展望はあまり良くない。座席のテーブルは一見白木のように見える木製である。
硬い金属調の内装材と柔らかな天然木。一見、異質の材料が同居しているにも関わらず、まったく違和感がないのは、そのデザインの優秀さによりものであろう。
予想に反して、先客は誰もいなかったので、最前列左側、最善の席を確保して、弁当の調達に出かけることにした。
キハ58系と並ぶ885系 | 普通車の車内 |
エントランス部 | エンブレム |
長崎駅のホーム上屋は、風格のある造りである。恐らく意図的なものであろうが、天井から吊るされた駅名標も、旧国鉄時代のままで、これまた雰囲気を醸し出している。戦前は、長崎港から上海行きの定期航路があったという話だから、駅の格としては現在より遥かにその地位が高かったのかも知れない。けれど、長崎は、終戦の年、原爆に被災している。この立派な骨組みは、その猛烈な爆風にも耐えたものなのであろうか。
長崎駅にて | キハ183系『シーボルト』とローカルDC |
発車間際になって、三々五々乗客が集まりだした。長崎から博多に向かう列車は概ね1時間に2本の運転であるから、新幹線同様、『待たずに乗れる』体制が確立している。私はどうしてもこの列車に乗る必要があるわけだが、他の大多数の乗客にとっては、駅に行ったとき、たまたま止っていたのがこの『白いかもめ』であったにすぎない。
9時30分、長崎発。『ぷひゅーっ』(ブレーキ緩解)、『ひゅいーーーん』(VVVFモーター)という今ふうの音を伴って、新型電車はするすると動きだした。すぐに女声の自動放送が入る。この『かもめ』に限らず、JR九州の新型特急では、車掌の肉声放送を聞く機会はほとんどない。一人乗務の車掌は車内改札に忙しく、悠長な放送などやってる暇がないのであろう。
原爆病院の隣に位置する浦上を出ると、再び長い長崎トンネルに入る。運転席の速度計は一気に130Km/hまで上昇。トンネル出口の明かりがぐんぐん近づく。車体をぐっと傾け、現川を通過。速い!
のらりくらりと走り続けた『あかつき』とは大違いである。
885系の運転席 | 卓袱弁当 |
『見られることを意識して設計した』という885系の運転席は、未来感覚に溢れている。雑多なスイッチ等にはフタがついていて、まるでテーマパークのオペレーティングルームのようでもある。運転士は大きなヘッドレストのついたシート(これも本革である!)の向こうに隠れていて、運転時刻表を指差喚呼する白い手袋が時折見えるだけだ。
諌早を出、右手に再び陽光の有明海が見えたところで、長崎で買った『卓袱弁当』(1,270円)を開く。長崎名物卓袱料理をモチーフにした駅弁で、鶏肉・卵のそぼろがかかったごはんを中心に、豚の角煮、手羽先、白身魚の天ぷら、クラゲのあえ物などが彩りよく並んでいた。
肥前山口からは佐賀平野を快走、あっという間に佐賀に着く。
佐賀からは予想外の乗車があり、エントランス部まで人でいっぱいになる。博多-佐賀間は50Km余り。首都圏や関西で、たったこれっぽっちの距離をJR特急に乗る人はいないであろう。けれども、高速バスとの競争が激しい九州では、多彩な割引切符が販売されている。たとえば、佐賀-博多間の『自由席往復割引きっぷ』は2,500円。実はこれ、博多-佐賀間の往復運賃に等しいのである。たとえ立ち席であったとしても、同じ運賃ならば特急列車に乗るのは当然だ。
10時59分、鳥栖着。
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2000.4.20制作 2000.4.21訂補