急行だいせんと山陰最果て鈍行旅行(2)


米子駅での機関車交換風景

■急行だいせん(2)

 目が覚めたら、寝台側の車窓に、単線電化の線路が寄り添ってくるのが見えた。伯備線の分岐駅・伯耆大山に到着するところであった。黄金色に染まりかけたの水田の向こうに、朝日を浴びて輝く大山が見える。

 5時53分、米子着。隣の1番線には、先発の松江行きが停車していて、先を急ぐ"普通"の乗客は、皆、そちらに乗り換える。快速列車となっただいせんに残るのは、その多くが鉄ちゃんのようだ。
 跨線橋の下で、機関車交換作業が始まった。夜通し列車を牽いてきたDD511188が幡生方に引き上げられたあと、構内係に誘導されたDD511105が近づいてきた。客車列車の減少で、終点から基地に折り返す適当なローカル列車がないため、単一列車の運転途中でまったく同じ機関車に交換しないといけないのである。同じJR西日本の寝台特急日本海が、敦賀で機関車交換を行うのも同じ理由である。

 米子をすぎると、進行右側に中海を望みながら進むことになる。幸い、我が寝台車はこちらが通路となっていて、極めて都合が良い。ところどころに三脚を構えた人の姿も見える。緑の水田に朱い機関車と青い客車。私は、駅以外の場所で列車を撮影する趣味はないけれど、きっと、絵になる写真が撮れるのだろうと思う。

朝日を浴びて...

米子にて

 真新しい高架に駆け登り、7時23分、終点出雲市到着。
 ドアが開くと、改札口に向かって人の流れが出来るのが終着駅の常だが、今日はそうではない。先頭の機関車のあたりには人だかりができている。SL列車みたいに、子供を機関車の前に立たせて記念撮影している父親もいる。傍らでは、大きなかばんを持った若い母親が、"何がおもろいねん..."といった表情で、嬉々として走りまわるダンナと息子の姿を眺めていた。私もしばらく順番を待って列車の姿をカメラに収めたけれど、逆光のため、うまく撮影できなかったようである。

寝台車の朝

出雲市にて

 駅構内の真新しい喫茶店で、モーニングセットの朝食を摂る。
 程なく、私の隣のテーブルに、昨夜からお世話になった急行だいせんの車掌さん2人がやってきた。ホール係のおばさんに、『おはよう』と挨拶するだけで、何も注文しない。こうした鉄道構内の飲食店には、鉄道員専用のメニューがあると聞いたことがあり、何が出てくるのかと興味があったのだけれど、運ばれてきたのは私と同じAモーニングであった。猛烈な勢いでパンとサラダを食べたあと、タバコに火を点け、コーヒーをすすっている。
 私も当直勤務の経験があるからわかるが、長く孤独な夜勤を終えた解放感は、何ものにも代えがたいものだ。もっとも、彼らはここで勤務が終わるわけではないようで、どうやら7時58分発の上り快速列車で、所属の米子車掌区まで帰る行程になっているようであった。

 朝食を終えたあと、駅周辺の探検に出かける。
 いまのところ、駅の正面玄関となっている南口は、美しく整備された近代的な町並みが、将来的には出現するであろう場所である。今は、大半の区画が空き地で、数台のタクシーが客待ちをしているだけである。
 いっぽう、旧駅舎のあった北口は、建物や線路がきれいに撤去され、出雲大社を模した車寄せの新設工事の真っ最中であった。駅を出て右側の一畑百貨店とバスターミナルはあいかわらずやや煤けたままの姿で、そのくたびれたビルの裏口みたいなところに、もっとぼろっちい電鉄出雲市駅があるのは2年前と同じである。

出雲市駅にて

一畑電鉄の電車(電鉄出雲市)

 木造屋根がかかった狭いホーム、貧弱な架線柱など、数十年まえから全く変わらない典型的なローカル私鉄駅にとまっているのは、関東の京王電鉄の中古車である。車内はクロスシートが並び、派手な塗装になっているから、ここ一畑電鉄では、まるでまったくの新車みたいに見えた。

 駅に戻って、今日の昼食を調達することにする。
 昨今の、地方での鉄道の地位低下は目を見張るものがある(!)が、それより更に凋落の色が濃いのが駅弁である。かつては、時刻表に[弁]マークのついた駅が数多くあったが、最近では新幹線停車駅か、県庁所在地級の駅でないと弁当がないことが多い。
 これから乗る山陰線でも、この先下関まで、駅弁があるのは益田のみである。弁当はあるときに確保するに限る。コンコースのそば屋が弁当屋を兼ねているようで、『手打ちそば弁当』というのがあった。サンプルも陳列されていて、名物出雲そばとそばつゆがセットされた魅力的な弁当のようでである。けれども、6月から9月までは販売停止。おそらく、品質保持の観点から、暑い時期は販売できないのだと思う。残念!。やむを得ず、『かに寿し』(930円)とペットボトル入りの麦茶を買って、ホームに上がった。

続く


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