最近のVERTEX STANDARD社製の無線機には、必ずと言っていいほど、"ソフトウエア調整"とでも言うべき設定項目が隠されている。
つい最近まで、無線機の調整と言えば、計測器の針を見ながら、半固定抵抗やトリマコンデンサ、コイルを回すものと相場か決まっていた。コイルやコンデンサの調整には絶縁体でできたマイナスドライバが必要で、竹串やアクリル棒を削って自作した経験のある方も少なくないであろう。(かく言うワタシも、その一人である。)
そもそも、電子回路の調整というのは、アナログ回路特有の作業である。
アナログ回路では、それを構成するパーツのわずかな個体差によって、特性に違いが出る。そこで、そのバラツキを一定範囲に収めるために、製造後、工場で1台1台調整を行うわけだ。アマチュアが趣味でやるぶんにはなかなか楽しい作業であるけれど、プロの生産現場ではこれほどヤッカイで手間のかかるものはない。さらに、半固定抵抗やトリマコンデンサのような可動部を持つパーツは、一般的に信頼性が相対的に低いとされるから、調整箇所をいかに少なくするかは、設計者の腕の見せ所なのである。
とは言え、無線機に関して言えば、その特性についてかなりシビアな法的規制があるから、完全無調整とはいかない。そこで、"ソフトウエア調整"とでも言うべき手法をとって、生産コストを下げている。
この場合、パーツのネジを回す...といった物理的な作業は必要ない。計測器の目盛りを見ながら、マイクロプロセッサの不揮発性RAMに、個々の無線機ごとに最適のパラメータを書き込むだけである。作業の完全機械化もそう難しいことではない。
1) VFOモードになっていることを確認のうえ、VX-7の電源を切る。
2) [MON] + [○] + [0]を押しながら、電源を入れる。
3) LCDに"VFO 440.000", "PLL REF XX"(XXは設定値で、無線機ごとに異なる)と表示される。
4) ダイヤルつまみを回すと、調整項目名が次々に表示される。
5) [V/M]を押すと、調整項目名が点滅する。この状態でダイヤルつまみを回すと、設定値を変更できる。もう一度[V/M]を押すと、変更した値が設定される。
6) PLL REF以外の項目は、バンド毎に設定できる。[BAND]を押すと、50→144→220→430→50....の順でバンド変更ができる。日本仕様では存在しない220MHz帯が現れるのが面白い。なお、バンド変更を行うと、調整項目は強制的に"HIS
SQL"に変更される。
7) 一旦電源を切り、再投入することによって、"通常モード"に戻る。
私のVX-7では、下表のとおりであった。設定値は、当然のことながら、個々の無線機によって異なるので、あなたのVX-7と同じであるとは限らない。
項目 | 50MHz帯 | 144MHz帯 | 220MHz帯(*1) | 430MHz帯 | 備 考 |
PLL REF | 96 | PLL基準発振?? | |||
HIS SQL | 0 | 0 | 0 | 0 | スケルチレベル? |
THLD SQL | 170 | 170 | 164 | 164 | |
TIGH SQL | 116 | 126 | 82 | 82 | |
S1 LEVEL | 32 | 32 | 46 | 46 | Sメータ調整? |
S9 LEVEL | 70 | 68 | 84 | 84 | |
S1 LEVEL | 64 | 64 | 70 | 70 | |
S9 LEVEL | 88 | 90 | 96 | 96 | |
HI POWER | 146 | 148 | 211 | 211 | 送信出力(*2)? |
L3 POWER | 113 | 117 | 158 | 158 | |
L2 POWER | 84 | 90 | 114 | 114 | |
L1 POWER | 53 | 58 | 60 | 60 | |
MAX DEV | 124 | 89 | 63 | 63 | 周波数変移(*3)? |
TN 67.0 | 25 | 38 | 29 | 29 | トーンスケルチ信号レベル? |
TN 167.9 | 4 | 5 | 7 | 7 | |
TN 254.1 | 6 | 6 | 8 | 8 | |
DCS DEV | 50 | 14 | 5 | 5 | DCS信号レベル? |
LCD TC V | 2 | 2 | 2 | 2 | 液晶表示関係?? |
LCD IREG | 4 | 4 | 4 | 4 |
これらの調整項目は、高性能な計測器を使って個体毎に最適の値に調整されている。むやみに変更すると、発射する電波の質が低下したり、終段半導体を破壊する可能性があるので、注意したほうがよい。もし、リスク承知で変更する場合、かならず最初の値をメモしておくことをお勧めする。
[V/M]を押しながら電源を入れると、LCDのドットがすべて点灯(黒)になる。更に、ダイヤルつまみを回すと、VX-7が持つ全フォントが順次表示され、キャラクタジェネレータが正常に動作しているか否かを確認できる。(製造工程での検査に用いられる機能と思われる。)
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2002年9月15日 制作 2002年9月16日 修正