さっきの実験で、ディジタル方式の携帯電話機が断続的に電波を発射しているということがわかった。つぎになんでこんなことをしてるのかを述べたいと思う。
■時分割多重多元接続
結論から先に言おう。ディジタル方式の携帯電話機が断続的に電波を発射しているのは、ひとつの電波を3つの携帯電話機(以下、移動局と言う)が共用しているからなのだ。
携帯電話に割り当てられた電波は有限である。800MHz帯でディジタル携帯電話に割り当てられた周波数の幅はたったの16MHz(注1)。ひとつのチャンネル(ちょっと玄人っぽい言い方をすると『チャネル』)は25KHz、つまり0.025MHz幅なので、全部で639チャンネルしかない。これをDoCoMoグループとIDO(首都圏と東海地方)またはセルラーグループ(首都圏・東海地方以外)で共用している。
1チャネルで1組の通話しか使えないとなると、これでは携帯電話ユーザーの密度が高い都心部ではとてもじゃないけど需要に応えられないので、ひとつのチャンネルを3人で分け合って使う方法が考えられた(注2)。それが『時分割多重多元接続』という方法である。
実際にはどうなっているかというと、基地局(『電話局』側の無線局である)はひとつの電波に3つの移動局あての情報を短い周期で順次送信する。移動局では、そのうち自分あての部分だけを受信するわけだ。移動局の送信はというと、基地局から指示されたタイミングで、ごく短い電波を周期的に発射している。電波を発射するタイミングは、3つの移動局がそれぞれ重ならないように制御されてるから、基地局側では、3つの移動局からの電波が重なりなく順次到着することになる。
注1
基地局から移動局向けの送信用で、810〜826MHz。これとは別に移動局から基地局に向けての送信用に940〜956MHzの16MHz幅が割り当てられているから、厳密言えば16MHz×2=32MHz幅。注2
ディジタル携帯電話がサービスを開始したときの規格で『フルレート』と言います。現在は都市部を中心にひとつのチャネルを6人で共用する『ハーフレート』という方法が使われています。これまでに述べたように、ディジタル携帯電話機はいわば『コマ切れ』でしか情報の授受をしてないが、携帯電話を介した通話はブツ切れにはならない。
なぜかというと、ディジタル携帯電話では伝えるべき音声を短い周期でティジタル信号に変換し、もとの音声の1/3の時間でまとめて送信しているからなのだ。受信側では、受け取ったディジタル信号を時間的に3倍の長さのアナログの音声に変換するから、結局、もとの音声が再現されるという仕組みである。
3つの移動局から基地局に向けて音声が送られる様子を上図に示す。移動局3の音声は、基地局でもとどおり再現されているのがわかる。
ただ、若干の遅れがあることは要注目である。実際の携帯電話では、音声のディジタル化・ディジタル化された音声の復元にも更に時間がかかるから、耳で聞いてもはっきり認識できるくらいの『遅れ』がある。
試しに手元の携帯電話機から自宅の加入電話に電話をかけ、右の耳に加入電話の受話器、左の耳に携帯電話機をあてて受話器に向かって何かしゃべってみるといい。少し遅れて自分の声が聞こえてくるのがわかる。
さっきの電波検知器の実験で、発光ダイオードがチカチカ光る秘密はこの『時分割多重多元接続』にあったのだ。
なお、ディジタル方式の無線通信がすべてこの『時分割多重多元接続』を採用しているわけではない。警察無線はディジタル方式だが、『時分割多重多元接続』ではないので移動局・基地局ともに送信される電波は連続的である。試したことはないが、パトカーの無線アンテナに電波検知器をつけても点滅はしない。
注3
私の経験では、肉眼で点滅が確認できるのは『ハーフレート』方式で通信を行っているときだけのようです。『フルレート』方式の場合は、肉眼の残像効果によって点滅はほとんど識別できません。
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