温泉名入浴剤を考える

 ホームセンターに行くと、驚くほど多くの入浴剤が売られている。もっとも歴史がある入浴剤のひとつは(株)ツムラバスクリンであろうが、最近は、そのものズバリ、温泉をイメージさせる商品も少なくない。
 その代表格がカネボウ旅の宿シリーズ。"登別"、"草津"、"箱根"、"白浜"、"別府"という有名温泉名がつけられていて、消費者の購買欲をかき立てる。

 

 この入浴剤、パッケージの表示によれば、成分は次のとおりである。

登 別
(25g/袋)
有効成分 無水硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、チンピ末、トウキ末、センキュウ末
保湿成分 無水メタケイ酸ナトリウム
指定成分 だいだい色205号、黄色202号の(1)、香料
草 津
(25g/袋)
有効成分 無水硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、チンピ末、トウキ末、センキュウ末
保湿成分 無水メタケイ酸ナトリウム
指定成分 黄色202号の(1)、香料
箱 根
(25g/袋)
有効成分 無水硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、チンピ末、トウキ末、センキュウ末
保湿成分 無水メタケイ酸ナトリウム
指定成分 黄色4号、青色1号、香料
白 浜
(25g/袋)
有効成分 炭酸水素ナトリウム、チンピ末、トウキ末、センキュウ末
保湿成分 無水メタケイ酸ナトリウム
指定成分 黄色4号、青色1号、香料
別 府
(25g/袋)
有効成分 無水硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、チンピ末、トウキ末、センキュウ末
保湿成分 無水メタケイ酸ナトリウム
指定成分 黄色202号の(1)、青色1号、香料

 成分を見る限り、陽イオンはナトリウムイオン、陰イオンは硫酸イオン・炭酸水素イオン・塩素イオンが主体であり、それに非解離成分であるメタケイ酸ナトリウムが加わる。これは、基本的な温泉成分に一致する。

 さて、これを我が家の風呂に使うと、どのような"温泉"になるのであろうか。


我が家の浴槽

 我が家の浴槽を実測してみると、長さ:約105cm、幅:約56cm、深さ:約48cmであった。つまり、その全容量は、(105×56×48)÷1000=約280Lである。
 しかし、この湯船に溢れるだけのお湯を満たして、ざっぶ〜んと浸かるような無駄はできない。ギリギリお湯が溢れる状態で風呂から上がり、残ったお湯の深さを測ると、約31cmであった。容量にして約180L。その差約100Lは、私の首から下の身体の体積ということになるのだが、とにかく、180Lのお湯にこの入浴剤1袋を溶かした状態を考えてみる。

 『カネボウ薬用入浴剤 旅の宿』の成分は、温泉名によって微妙に異なり、かつ、その配合割合は不詳だが、全量25g/袋は共通だ。これを180Lのお湯に溶かすと、その溶存物質濃度は25÷180=約0.14=約140mg/L(但し、水道水を純水と仮定)となり、温泉法で定める基準(1,000mg/Kg)には遠く及ばない。つまり、『カネボウ薬用入浴剤 旅の宿』を溶かした家庭風呂は、単純温泉(温度:25℃以上)にしか相当しないということになる。

 まあ、考えてみれば、着色料によるお湯の色、香料によるお湯の香りは、共に天然温泉ではありえないもの。それでも、そのネーミングに魅かれてついつい買ってしまうのは、日本人の温泉への憧れを見透かした巧みなマーケティングの勝利ということなのだろう。

戻る


Copyright (C) 2004 Heian Software Engineering. Allrights Reserved.

制作:2004年2月27日 修正:2004年2月27日