有福温泉　よしだや

　有福温泉では、現在6軒の旅館が営業している。
　露天風呂付き客室がある宿、築200年の木造三階建ての宿など、それぞれ独自のセールスポイントを打ち出しているが、温泉ファンならば、やはりお湯を基準に選びたいと思う。

　12年ぶりに再訪した有福で今回予約したのは、"よしだや"。私が調べた限り、現在、有福温泉で、源泉かけ流しの大浴場を持つのはここだけである。

　温泉街の中心にある外湯御前湯の隣。クルマが通れる道路から、石畳の階段を上った場所で、マイカーは少し離れた専用駐車場に置き、歩く必要がある。

　傾斜地に増築を繰り返した館内は、通路や階段が入り組んでいて、ちょっとした迷路のよう。絨毯敷きの廊下にゴザが重ねて敷かれていて、館内は全面禁煙である。古い建物だが、うまく改装されているので、不快な思いはしないであろう。

　大浴場は、御前湯のすぐ裏手にあたる場所に設けられている。4〜5人入ればいっぱいになる小さな浴槽には、透明なお湯が注がれ、そして、静かに溢れている。無色透明無味無臭のなめらかなお湯を堪能できた。

　食事は、別室---と言っても、要は使わなくなった狭い客室でいただく。
　特別豪華なものではないが、地物の魚介類が豊富に登場する。刺身はもちろん、ノドグロの焼き魚やカサゴのから揚げなど、非常にうまく、酒がすすんだ。

　温泉がブームになってから、"何が何でも源泉かけ流し"という『かけ流し原理主義』の方も少なくない。けれども、たとえば、非常に濃い食塩泉などは、多少の循環をしたところで、浴感にあまり差はない。
　逆に、溶存物質が少ない単純温泉、殊に有福温泉に代表されるアルカリ性単純温泉は、まさにお湯の鮮度が生命。

　有福温泉で、その清冽なお湯を賞味するなら、絶対お勧めの宿である。

お気に 入り指数:★★★★☆