人吉温泉　旅館たから湯

　人吉市街からはやや離れた、球磨川沿いに位置する温泉旅館。
　目立つ看板はなく、民家みたいな外観だが、玄関を一歩入ると、モダンかつスタイリッシュな空間がひろがっている。

　ベッドが置かれた畳敷きの客室で旅装を解き、さっそくその湯を賞味することにする。

　メインとなる内湯の扉を開けると、はるか眼下にある木製の湯船が目に飛び込んできた。
　湯船が床面より低い位置にあるのは、足下湧出時代の古典的な構造で、思わずほくそえんでしまったのは言うまでもない。
　とまあ、そんな薀蓄を知らすとも、純木造の内湯がタダモノではないことは、誰にだってわかると思う。豊富にかけ流されるお湯は、清冽な感触のもの。ゆったり、落ち着いた湯浴みを楽しめる。
　家族でしっぽりいい湯を賞味したい方には、家族湯もある。こちらは石張りのシンプルな造りで、その湯を独り占めできる。

　食事は部屋食。和風の懐石料理だが、一品一品タイミング良く運ばれてくるので、熱い料理は熱いまま、冷たい料理は冷たいまま、美味しくいただける。
　朝食は、別のお食事処で摂ることになるが、伝統的な和の朝餉のシメに、香り高いコーヒーが供されたのが嬉しかった。

　昨今の九州では、黒川に代表されるような、田舎風の演出が幅をきかせているけれど、それとは正反対の立ち位置にいる、正統的進化を提案する湯宿だと思う。

　宿泊料はそれ相応だが、お勧めできる宿である。

　お気に入り指数:★★★★★