湯田中駅前温泉　楓の湯

　湯田中に鉄道が通じたのは1927年4月のことである。

　著名な温泉地の玄関口として、志賀高原にちなんだ、当時としては大変モダンな山小屋ふうの駅舎が建てられた。
　高度成長前夜の1956年、年々増加する観光客を捌くために、反対側に現駅舎が建設される。以降、この瀟洒な駅舎は放置されたままになっていたのだという。

　それから半世紀近い時間が流れ、観光客の足はその大半がマイカーとなった。
　年々減少する鉄道利用者。線路の廃止もうわさされるようになり、これに危機感を抱いた地元自治体が造ったのがこの湯田中駅前温泉である。

　奇麗に化粧直しされて、展示室として活用されることになった旧駅舎の隣に、木造平屋の質素な湯屋が新築された。
　石と檜、2つのタイプの浴場があり、ひと月ごとに男女が入れ替えになる。2005年9月は、後者が男湯である。

　内湯・露天ともにそう大きなものではないし、その造りもかなり質素な感じがする。
　しかし、不審な吸い込み口を持たないかけ流し専用浴槽は、ここが豊富な源泉をもつ温泉地の浴場であることを示している。ざあざあと洗い場に流れるオーバーフローが気持ちいい。

　お湯は、溶存物質:1.6927g/Kgのナトリウム-塩化物・硫酸塩泉。源泉温度が高く加水されているので、残念ながら特徴的な浴感はあまりない。

　畳敷きの休憩コーナーがあって、駅に発着する電車が見える。
　湯田中はスイッチバック構造の終着駅で、全国的でここだけの存在である。急勾配を登ってきた電車がホームを通り過ぎたあと、ほんのわずかにバックしてからドアを開ける一部始終を見ることができる。

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