別所温泉　旅館たけや

　別所温泉街のいちばん奥にある旅館。

　こう言っては何だが、ピカピカの温泉宿をご望みの方は、他をあたったほうがいいだろう。1960年代がそのまま現代にタイムスリップしてきたかのような旅館である。きちんと手入れはなされているが、設備の古さはいかんともしがたい。

　けれども、こと温泉宿に関しては、この古さが特別の意味をもつ。
　源泉を引き湯し、そのまま浴槽にかけ流したかつての内湯旅館の浴場設備が、そっくりそのまま現役であるからだ。

　豆タイル張りの内湯には、強い硫黄臭をもつなめらかな湯が滔々と溢れている。カランの金具が真っ黒になっているのは、もちろん掃除が行き届いていないのではなく、イオウ分の豊富な温泉がそのまま使われている証拠である。

　大浴場のほかに、家族風呂もある。写真では小さく見えるが、一般家庭の浴槽よりふたまわりは大きい湯船に源泉がそのまま注がれているのである。宿泊者なら誰でも自由に利用でき、べつに家族連れでなくても入ってかまわない。
　少し熱めの湯に身を沈めると、ざざーっと溢れる。歴史ある名湯の湯をかけ流しで独占しているのだ。嗚呼、何という贅沢であろうか。

　ひと昔まえは、24時間入浴できることがホンモノの温泉宿の目安であったが、昨今は必ずしもそうとは言えない状況となった。レジオネラ対策のため、たとえ循環装置がなくても毎日の換水・清掃が推奨されているからである。この宿でも、0時から6時までは風呂の利用ができない。

　夕餉の膳は、部屋食が原則。決して豪華ではないか、しかし、値段からみてじゅうぶんに満足できる質・量のものであった。

お気に入り指数:★★★★☆