十津川温泉 庵の湯


バスターミナル
庵の湯は、この向かい

 十津川温泉郷の中心である平谷地区に、この6月(2005年)にオープンしたばかりの村営日帰り入浴施設。
 バスターミナル(十津川温泉バス停)の向かいだから、公共交通機関を使ってのアクセスも容易だ。クルマの場合は、バスターミナルに隣接する村営駐車場を利用する。

 門をくぐって階段を降りると、ちんまりとした2棟の湯小屋がある。男湯・女湯がそれぞれ独立した建物になっており、内部は脱衣場と内湯だけという極めてシンプルな構造だ。

 浴室の扉(ありがちな軽合金の引き戸ではなく、風情ある木戸である!)を開けると、眼前にダム湖が広がる。そして、鼻粘膜をくすぐるたおやかな硫黄臭と新築木造ならではの木の香り! 四畳半ほどの湯船からは、わずかに白濁した湯が豊富に溢れ、そして、排水口に消えていく。もちろん、湯船の中にも妙な吸い込み口はない。何の疑問もなく"かけ流し"と判断できる最上級の風呂である。

 掛かり湯をしてから、その湯に身を委ねる。重曹泉特有のなめらかな感触。循環ポンプの唸りも、ボイラの騒音も聞こえない。耳に入るのは、竹筒から注がれる源泉の音だけだ。大阪吹田から3時間半もの時間を費やしてやってきた甲斐があったとつくづく思う。

 真新しい施設なので、3つある洗い場はシャワーや混合水栓のついた快適な仕様である。
 ここにも温泉が使われており、カランの温度調節つまみを最高温(=水の混入を最小)にすると、芳しい硫黄の匂いを感じることができた。

 庵の湯は、2か所の源泉から得た混合泉を使用している。
 十津川温泉は湯温が高く、浴用に適した温度にする(---と同時に湯量を増やす)ために加水しているところが多い。しかし、脱衣場の掲示を見る限り、庵の湯では原則加水は行っておらず、それどころか、新湯投入量が豊富であるとして消毒薬の投入すら行っていない。つまり、関西ではほとんど例をみない、"あるがままの天然温泉"なのである(源泉自体は掘削・動力揚湯)。

 休憩所の類は設備されていないので、湯上りは小さな東屋のベンチに腰掛け、川面を渡る涼風で火照った身体を冷ますことになる。売店・食堂はもちろん、飲み物の自販機すらないが、バスターミナル隣のよろずやはちょっとしたコンビニ並みの品揃えだから心配はいらない。

 無料の足湯のほか、奈良県初という保健所の正規許可を得た飲泉場がある。試しに口に含んでみたが、金気がなく、非常に飲みやすい湯であった。

★  ★  ★

 開業間もないが、今のところ、訪れる人は極めて少ないようである。平日とは言え、私が1時間余の湯浴みをしている間にやってきたのは、"山仕事で痛めた肩を治しに来た"という地元のおっさん1人だけであった。

 昨年、村内すべての温泉浴槽がかけ流しであるとの"源泉かけ流し宣言"を行った十津川村だが、それが可能となった背景には、湯量・湯温に比べて訪問者が圧倒的に少ないという事情がある。

 客が少ないから、源泉を浪費する巨大浴槽はいらない。わずかな汚水ならば、川にそのまま放流しても、自然が浄化してくれる(実は、十津川村には下水道がない。源泉をいくら使おうが、下水道料金は発生しない)。
 つまり、"源泉かけ流し宣言"は、自然のスケールに比べて、人間の営みが無視しうるほど小さい場合に限って成り立つものなのである。

 では、"源泉かけ流し宣言"は何のために行われたのか。
 それはもちろん、観光客を呼び込むためだ。長年村人が生業としてきた林業が衰退したいま、村は観光業にその将来を託しているのである。
 けれども、もし、この宣言が著効を奏して、全国からワンサカ客が押し寄せればどうなるか----村民のサイフは再び豊かになるであろうが、同時に宣言そのものを取り下げざるを得ない事態になることは間違いないだろう。

 環境保護と経済発展の両立は可能か否か---極めて難しいテーマであるが、果たして、村当局はどう考えているのであろうか。

 けれども、お湯につかっておっさんの朴訥とした語り口を聞いているうちに、長年自然と向き合ってきた十津川の人たちは、きっと"自然"と"経済"をバランスさせるいい知恵を持っているに違いないと思えてきた。
 しあわせを"円"とか"ドル"とかいう単位でしか測れない人々には決して思いつかない素晴らしい知恵を...。

お気に入り指数:★★★★★

施設DATA
温泉名 十津川温泉
施設名 庵の湯(いおりのゆ)
施設の種別 日帰り入浴施設
所在地 奈良県吉野郡十津川村大字平谷(地図)
電話番号 07466-4-1100
参考サイト 十津川村役場
十津川村観光協会
営業時間 10:00〜21:00(毎週火曜日定休)
料金 大人:400円、小人:200円
無料の備品 ボディーソープ・シャンプー・鍵つき貴重品ロッカー・ドライヤー
浴場施設 内湯のみ
駐車 可能(村営駐車場利用、100円/1時間)
入浴日 2005年6月23日
備考 <0142>

温泉DATA
源泉名 十津川温泉 2号源泉・7号源泉(所在地:奈良県吉野郡十津川村大字平谷815番地の1) 掘削動力揚湯
泉質 ナトリウム-炭酸水素塩泉[低張性-中性-高温泉]
泉温 75.6℃(気温:13.0℃) 
2号泉:48.7℃(気温:4.1℃)、7号泉:70.2℃(気温:4.3℃)
湧出量 2号泉:610L/min、7号泉:290L/min
知覚的試験 ---
pH値 2号泉:7.4、7号泉:8.4
ラドン ---×10-10キュリー
密度 ---g/cm3(20℃/4℃)
蒸発残留物 ---g/Kg
溶存物質総計(ガス性のものを除く) 1.733g/Kg
分析年月日 2005年3月25日 (下線を付したものは、2004年3月4日の分析結果)
情報源 脱衣場の掲示
1Kg中の成分

  
陽イオン mg
リチウムイオン 2.1
ナトリウムイオン 441.7
カリウムイオン 17.1
アンモニウムイオン 1.8
マグネシウムイオン 1.4
カルシウムイオン 16.6
ストロンチウムイオン 0.6
バリウムイオン 0.2
アルミニウムイオン 0.1未満
マンガンイオン 0.1未満
鉄イオン 0.1
陽イオン合計 481.6
陰イオン mg
フッ素イオン 5.4
塩素イオン 125.1
臭素イオン 0.3
ヨウ素イオン 0.1未満
亜硝酸イオン 0.1未満
硝酸イオン 0.1未満
リン酸イオン 0.1未満
硫化水素イオン 0.2
硫酸イオン 0.6
チオ硫酸イオン 0.2
炭酸水素イオン 1008.
炭酸イオン 1.5
陰イオン合計 1141

非解離成分 mg
メタケイ酸 89.1
メタホウ酸 21.3
非解離成分合計 110.4
溶存ガス成分 mg
遊離二酸化炭素 104.6
遊離硫化水素 0.1
溶存ガス成分合計 104.7

 


奈良県に戻る

戻る


Copyright (C) 2005 Heian Software Engineering. Allrights Reserved.

制作:2005年6月24日 修正:2005年7月7日