湯涌温泉　総湯白鷺の湯

　温泉地の中心となる公衆浴場のことを当地では"総湯"と呼ぶらしい。あまり知られていないが、片山津、粟津、和倉といった巨大旅館が軒を連ねる温泉地にも、総湯と称する公衆浴場が存在する。

　湯涌温泉は、これら有名どころとは較べものにならないささやかな温泉地だが、その上品な雰囲気は"金沢の奥座敷"という異名に恥じないものだ。

　白鷺の湯は、湯涌温泉の総湯。1999年に改築された建物は端正な瓦葺きで、内部はクラシックな洋館を思わせるインテリアとなっている。

　石張りの浴場は、広いガラス窓があって、大変明るい雰囲気だ。
　浴槽はひとつだけだが、湯口からは無色透明無味無臭のなめらかな湯が滔々と注がれている。柄杓が置かれているのは飲泉可能な証拠。純粋な掛け流しではないものの、よーく見ると、湯船の縁からは結構なオーバーフローがあって、お湯の鮮度はかなり高いと思う。

　湯涌温泉はまた、竹久夢二が最愛の女性と過ごしたという大正ロマンの香り漂う温泉地でもある。
　白鷺の湯の向かいに、瀟洒な金沢湯涌夢二館があるので見学した。

　独特の作風で知られる夢二の女性画は、いまでも、殊に女性のあいだで人気が高い。
　施設の展示を見て、その高い芸術性は、いずれも金沢にゆかりのあった3人の女性との交際から生まれたものらしいことを知る。
　もっとも、その生涯を年表にして眺めれば、彼は何とも浮気性な男であったようにも見える。女性を泣かせてでも道を究めるのが男の甲斐性であった昔はともかく、現代の日本で彼と同じことをしようものなら、巨額の慰謝料を請求されるに違いない。

お気に入り指数:★★★★☆