吉川温泉 よかたん


幸の湯 露天風呂


幸の湯 手前が主浴槽、奥が源泉浴槽。


幸の湯 源泉浴槽


幸の湯 源泉浴槽の湯口

 泉質別の温泉の効能は、その根拠が曖昧なもの大半だが、炭酸泉(二酸化炭素=炭酸ガスを多く含む温泉)に限って言えば、効果が医学的に証明されている。
 浴用に用いると、皮膚から体内に吸収された二酸化炭素が血液の流れを良くするのだ。専門的に言えば、末梢血管抵抗を下げ、心臓に負担をかけることなく心拍出量を増加させるので、人工的に作った炭酸泉を医療に用いる研究を行っている団体も存在するほどである。(注1)

 欧州には良質の炭酸泉が多数存在し、温泉療法と言えば炭酸泉に入ることを言うらしいが、日本国内の炭酸泉はあまり多くない。(注2)

 兵庫県吉川町にある公営日帰り入浴施設・よかたんのセールスポイントは、炭酸ガス含有量日本一のお湯(含炭酸食塩泉)である。
 地下1,500mのボーリングで自噴した湯は、1Kg中に4,110mgもの二酸化炭素を含む。これは、みちのく温泉(青森県)の4,004mgを抜き、目下のところ日本最高記録だという。

 4月1日木曜日、吹田市の自宅から中国道をひとっ走り。吉川ICを下りて1Km程で吉川温泉に到着。あたりは桜が五分咲きとなっていて、"日本の春"を実感させられる農村風景である。

 よかたんは、町営体育館等の公共施設が集まった一角にあった。

 脱衣ももどかしく浴場に入ると、眼前に無色透明の湯をたたえた主浴槽がある。けれども、これは10倍希釈の含重曹食塩泉であって、正直言って大したことはない。お目当てはその奥にある源泉浴槽だ。
 定員7〜8名の小さな岩風呂だが、既に6人もの先客がいる。湯口に近い場所にわずかな隙を見つけて、早速入湯。

 淡黄色の濁りを伴った湯の感触を味わう間もなく、ツンと刺激的な炭酸ガス臭が鼻につく。眼にも若干の刺激を感じる。そのうち、何だか頭がくらくらしてきた。
 "ぼぼぼぼぼ、ぼごっ"と不規則に吐出する湯口から、大量の炭酸ガスが放出されているのだ。炭酸ガス自体に毒性はないけれど、あまりに高濃度なために、軽い酸欠状態になったのだろう。一旦立ち上がって深呼吸をする。

 湯口から湯が噴出する様子(mpeg, 約343Kbyte)

 湯口から吹き出る新鮮な湯をすくってみると、皮膚に無数の気泡が付着する。舐めてみたら猛烈な塩味で、清涼味は感じられなかった。源泉の塩分含有量は約38g/Kg。これは、海水(33〜34g/Kg)よりも高い。あまりに濃い塩分が、炭酸泉特有の清涼味をマスクしているのかも知れない。
 他のサイトの情報(注3)によれば、この源泉浴槽は、掛け流しながら加水されているという。"水割り"にしてこの状態なのだから、自噴したばかりの100%源泉は、さぞすごい湯なのだろう。

 湯が滝のように注ぐありがちな露天風呂、なぜか浴場内にある足湯を一巡したあと、今度は酸欠の心配がない(!?)場所でゆっくりつかってみる。
 湯温は36.5℃前後とのことで、いくらでも長湯ができる。湯口のお湯は強烈な泡付きであったが、一旦湯船に投入された湯の"泡付き"は期待したほどではなかった。
 15分くらいつかったあと、そのまま上がったが、体温程度の湯温であったにもかかわらず、身体がぽかぽかしているのが分かった。これが炭酸泉の血管拡張作用なのだろう。

 この日の男湯は"幸の湯"であったが、もう一方の大浴場は木をテーマとした"福の湯"で、1週間ごとに男女が入れ替えとなる。このほか、家族風呂が3組あり、いずれの浴場にも含炭酸食塩泉の源泉風呂があるという。
 木の質感を活かした館内には、マッサージコーナー、軽食コーナー、畳敷きの休憩室等の定番設備が揃っている。

 炭酸ガス含有量日本一の温泉---あなたも一度体験されてはいかがであろうか。ただし、開業2年を経た今も、休日には入浴を待つ長い行列ができるらしいから、ご承知おきを。

お気に入り指数:★★★★★

注1:少なくとも2〜3週間続けて入浴することが必要で、1回入浴しただけで効果が現れる訳ではない。

注2:北摂から六甲にかけての一帯は、我が国では数少ない炭酸泉の集中地域として知られている。浴用としては、有馬(神戸市)や篭坊(篠山市)が有名だし、生瀬(西宮市)や平野(川西市)では、飲用として瓶詰めの天然炭酸水が生産されていた。ただし、現在はいずれの湧出量もわずかで、炭酸泉を実感できる浴場は多くない。

注3:☆はっぴーぱらだいす☆

施設DATA
温泉名 吉川温泉
施設名 よかたん
施設の種別 日帰り入浴施設
所在地 兵庫県美嚢郡吉川町吉安224(→地図)
電話番号 0794-72-2601
公式サイト http://www.yokatan.com/
営業時間 10:00〜22:00(最終受付 21:00)
月曜日定休(祝日の場合は、翌火曜日)
料金 中学生以上:600円、小学生:300円、幼児:無料
家族風呂は1時間4,000円。
無料の備品 ボディーソープ・シャンプー・鍵つきロッカー・ドライヤー・綿棒
浴場施設 内湯、源泉風呂、露天風呂、サウナ、家族風呂(別料金)など
駐車 可能(120台)
入浴日 2004年4月1日
2006年1月29日
備考 <0036> 畳敷きの休憩室、セルフ式軽食堂あり

温泉DATA
源泉名 吉川温泉
湧出地:兵庫県美嚢郡吉川町吉安字久郷224番地
泉質 1) ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉[低張性-中性-温泉]
2) 含二酸化炭素-ナトリウム-塩化物強塩温泉[高張性-中性-温泉]

※吉川温泉は、泉質の異なる源泉が2つある。"含重曹食塩泉"源泉を1)、"含炭酸食塩泉"源泉を2)とする。以下同じ。

泉温 1) 貯湯タンク内で源泉水を10分の1の濃度に希釈して利用する源泉水であるため測定しない。
2) 36.5℃(気温:8.0℃)
湧出量 1) 貯湯タンク内で源泉水を10分の1の濃度に希釈して利用する源泉水であるため測定できない。
2) 83L/min(掘削自噴)
知覚的試験 1) 無色、透明、塩味、無臭(長時間放置すると茶褐色の沈殿を生じる)
2) 無色透明、清涼味、塩味を有する。
pH値 1) 7.03
2) 6.25
ラドン 1) 0.35Bq/Kg
2) 7Bq/Kg
密度 1) 1.0019
2) 1.02980
蒸発残留物 1) 4.4989g/Kg
2)38.637g/Kg
溶存物質総計(ガス性のものを除く) 1) 5.132g/Kg
2) 43.5g/Kg
分析年月日 1998年12月21日
1Kg中の成分
     

 

"含重曹食塩泉"

陽イオン mg
ナトリウムイオン 1740.
カリウムイオン 55.8
マグネシウムイオン 28.3
カルシウムイオン 49.1
鉄イオン 1.14
リチウムイオン 5.54
ストロンチウムイオン 2.55
バリウムイオン 0.35
アルミニウムイオン 0.85
陽イオン合計 1880.
陰イオン mg
塩素イオン 1980.
臭素イオン 4.01
炭酸水素イオン 1150.
炭酸イオン 0.94
硫酸イオン 13.4
硝酸イオン 1.85
陰イオン合計 3150.

非解離成分 mg
メタケイ酸 15.1
メタホウ酸 83.7
非解離成分合計 98.8
溶存ガス成分 mg
遊離二酸化炭素 181.
溶存ガス成分合計 181.

 

"含炭酸食塩泉"

陽イオン mg
ナトリウムイオン 15400.
カリウムイオン 301.
マグネシウムイオン 360.
カルシウムイオン 312.
鉄イオン 5.71
マンガンイオン 0.14
リチウムイオン 42.7
ストロンチウムイオン 19.1
バリウムイオン 4.34
アルミニウムイオン 0.42
陽イオン合計 16400.
陰イオン mg
フッ素イオン 0.89
塩素イオン 21500.
臭素イオン 0.86
硫酸イオン 20.0
炭酸水素イオン 4360.
炭酸イオン 0.59
陰イオン合計 26.000

非解離成分 mg
メタケイ酸 53.5
メタホウ酸 1030.
非解離成分合計 1080.
溶存ガス成分 mg
遊離二酸化炭素 4110.
溶存ガス成分合計 4110.

炭酸泉について

 炭酸泉とは、遊離二酸化炭素(CO2)が多く含まれる温泉である。

 遊離二酸化炭素が250mg/Kg以上含まれると、温泉法の規定で温泉と呼ぶことができる。しかし、療養泉の基準には及ばないので、泉質名はつかない。
 遊離二酸化炭素が1,000mg/Kg以上あると、療養泉の基準をクリアするので、泉質名がつく。
 このうち、溶存物質(ガス性のものを除く)が1,000mg/Kg未満のものは、"単純二酸化炭素泉"<単純炭酸泉>(<>内は旧表示。以下同じ。)という。溶存物質が1,000mg/Kg以上のもの(塩類泉)の場合は、主成分によって決まる泉質名のアタマに"含二酸化炭素"<含炭酸>をつける。

 よかたんのお湯は、大量のナトリウムイオン・塩素イオンを含む(溶存物質:1,000mg/Kg以上)ので、"ナトリウム-塩化物"<食塩泉>であり、更に1,000mg/Kg以上の遊離二酸化炭素を含むから、"含二酸化炭素-ナトリウム-塩化物泉"<含炭酸食塩泉>ということになる。

 一般に、炭酸泉はその扱いが難しい。
 水に溶ける二酸化炭素の量は、温度が上がると急激に減少する。従って、ヘタに加熱をすると、肝心の二酸化炭素は気体となって霧散してしまう。また、ポンプで引っかき回すのも良くない。炭酸飲料を振ると、急激に泡立って炭酸が抜けてしまうのと同じことた。加熱も循環も難しいから、効果の高い炭酸泉浴槽は自ずと小規模なものにならざるを得ない。
 よかたんの遊離二酸化炭素含有量は、療養泉基準の4倍以上である。そこで、これに湯を混ぜることによって、浴槽内の湯温を一定に保ち、かつ、多くの人が天然炭酸泉の恩恵にあずかることができるようにしているわけだ。"加水"と聞くと眉をしかめる向きも少なくないだろうが、源泉浴槽の人気ぶりを見ると、私はよかたんのやり方はひとつの見識であると思う。

 炭酸水素塩泉という、炭酸泉によく似た名前の温泉がある。これは、陰イオンの主成分が炭酸水素イオン(HCO3-)である温泉のことなので、注意を要する。炭酸泉について書かれたWebサイトの中には、炭酸泉と炭酸水素塩泉を混同しているものが少なくない。

 重曹(NaHCO3)が340mg/Kg以上含まれると、温泉法の規定で温泉と呼ぶことができる。しかし、療養泉の基準には及ばないので、泉質名はつかない。
 溶存物質が1,000mg/Kg以上のもの(塩類泉)の場合、陽イオンの種類によって、泉質名が決まる。陽イオンの主成分がナトリウムならば、"ナトリウム-炭酸水素塩泉"<重曹泉>となり、カルシウムならば、"カルシウム-炭酸水素塩泉"<重炭酸土類泉>となる。

 重曹に強い酸を加えたり、あるいは重曹の水溶液を加熱すると二酸化炭素が発生する。従って、炭酸泉と炭酸水素塩泉が全く無関係のものであるとは言えないのだが、炭酸泉特有の血管拡張作用はあくまでも温泉水に溶けた二酸化炭素の作用であることに留意せねばならない。

 


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制作:2004年4月2日 修正:2006年1月29日