ラーメン 570円
学生時代、廃止目前の赤字ローカル線完乗を目指していた私は、春休みのある日、日中線の試乗に出かけた。国鉄日中線は、磐越西線喜多方駅から分岐していた行き止まりの盲腸線で、最後まで機関車が牽く客車列車が走っていたことで有名である。磐越西線の客車列車から喜多方駅のホームに降り立った私は、日中線列車の待ち時間を使って遅い昼食を摂ることにした。
ぼたん雪が舞う駅前通りを5分と歩かぬうちに、典型的な駅前食堂風の店があった。店内はがらんとしており、とりあえずラーメンを注文。程なく出てきたお目当ての一品は、まるできしめんのような平らな麺に濃い醤油味のスープがかかっていたのであった。もとより、単に空腹を満たすだけの食事にあまり期待はしていなかったけれど、噛んでも噛んでも噛みきれない麺と関西人にはあまりにえぐい醤油の匂いに辟易したことを覚えている。
あれから20年近い年月が過ぎた。日中線はとっくに消えうせ、喜多方は『蔵のまち』として全国にその名を知られるようになった。とともに、なぜかサッポロや長浜と並ぶラーメンのブランドにもなってしまったのである。なまこ壁の蔵を模した喜多方ラーメンの店が各地にでき、それを旨いと言う人も多くなったけれど、私は、あの日のあのラーメンの味が忘れられず、喜多方と名のつくそれは爾来一度も口にしたことはなかった。
さて、今回紹介するのは、喜多方では結構有名なラーメン店の『技術指導』によって営業しているという店である。
地元の準大手ファミレスが経営しているらしく、しゃれた店の造りやカラー写真入りのメニュー、立派なPOSシステムとマニュアルの文書を棒読みしてるようなアルバイト店員の態度などはさすがである。と同時に、味のほうにはあまり期待できないようにも思えてきた。
供されたラーメンは、やや太めのちぢれ麺に薄い醤油味のスープがかかっている。具は関東系ラーメンの定番三点セットとでも言うべきチャーシュー、メンマ、白ねぎ。ホンモノの坂内ラーメンは食べたことがないから評価のしようがないが、妙な先入観さえ除けば、あっさりした案外いけるラーメンである。
チャーシューが5枚ものっているが、これはもっともベーシックなラーメンである。丼いっぱいにチャーシューを敷き詰めた『チャーシュー麺』が看板商品らしいが、店内でそれを注文している人の姿はみかけなかった