ナースの過酷な勤務の実態が新聞に報道されることがある。確かに、女性の仕事としては極めてキツイ部類に入るのではないかと思う。けれども、同じ職場で働く医師の勤務実態が報道されることは稀である。
病院に勤務する医者は、病理医など一部の者を除けば、必ず当直勤務がある。ひと晩病院に泊まり込んで、夜間の急患を診察したり、あるいは入院中の患者さんの急変に対応する仕事で、月に数回はそうした当番がまわってくる。
病院に勤める医者の仕事というのは、たいていの場合、曜日ごとに決まっている。
私の例で言えば、月曜日午前は病棟の部長回診、午後は心臓の超音波検査、火曜日は外来、水曜日は心臓のカテーテル検査、木曜日は所属の大学で研究を兼ねた検査を行い、金曜日はまたまた外来ということになっている。これに加えて、当直という仕事があるのである。
月の半ばを過ぎると、来月の当直の日程が発表されるのだが、実は当直勤務というのは昼間の仕事とは何の関係もなく割り当てられるのが通例である。
つまり、たとえば月曜日の夜が当直になっても、その日の昼間の仕事や翌日の火曜日の仕事には何の変更もない。月曜日の朝出勤すれば、火曜日の夕方まで少なくとも30時間の連続勤務ということになる。夜勤が終われば午前中に帰宅できるナースとの最大の違いでる。
もちろん、30時間ぶっ続けに仕事をしているわけではなくって、夜間、何事もなければ当直室で寝てればいいわけであるが、そんな平和な夜は滅多にない。
日付が変わると急患の来院はひと息つくが、入院患者さんの急変は時間を選ばない。明け方になって、喘息の患者さんが来るのはよくあることである。結局、断続的に数時間の睡眠をとっただけで、翌朝、次々に出勤してくる同僚を迎える羽目になる。
仮に睡眠時間がほんの1時間であったとしても当直明けの仕事は容赦なく割り当てられている。私なんぞはまだ何とかなるが、40代をすぎた先輩方にとってはさすがにキツイ仕事のようで、昼休みにソファで熟睡されている先生も多い。最近は女性の医師が増えてきたけれど、女医さんとて例外ではないから、家族の支援がなければ女性医師が子供を産み、育てることなど、事実上不可能に等しいのである。
夜間の救急医療は、こうした医者の過酷な勤務の上に成り立っている。
夜中、身体の具合が悪くなったら、もちろん遠慮なく病院を受診していただれば結構であるが、応対するに出た多少不機嫌そうな医者は、こういう勤務をしているということを頭の片隅にでも置いていただけると嬉しいと思う。
(本文とは関係ありません。)
(1997.11.9記)