■備後落合〜広島

 備後落合は中国山地の鉄道の要衝である。が駅員は配置されておらず、窓口は真新しいベニヤ板で塞がれている。駅構内には、津山鉄道部色のキハ120が停車中で、程なく急行ちどりとして折り返す普通列車も到着すした。それぞれの列車を乗り継ぐわずかな乗客が構内を行き来する。

 芸備線と木次線、あるいは備後落合をこえて芸備線を直通する定期列車はなく、現に3本の列車の停車位置から先は、レールが真っ赤に錆びついている。車両運用の上では、宍道・新見・広島から別々に走ってきたローカル線の終着駅がたまたま同じ場所あるのと同じことになっている。

津山色のキハ120・備後落合にて

急行ちどり・備後落合にて

 急行ちどりは、キハ58+キハ28の2両編成。塗色こそ変わっているが、ひと昔まえの典型的なローカル急行である。10人ばかりの乗客を乗せた急行列車は、14時18分、淡い紫煙を残して備後落合を離れた。

 昨夜はほとんど眠っていない。木次線では見るものすべてが珍しく、半分以上立っていた。おまけに急行ちどりのシートはバケットタイプに改装されていて、なかなか座り心地も良い。不覚にもついうとうとと眠ってしまい、目が覚めると塩町に停車中であった。2両編成のお座敷気動車と行き違うところで、備後落合の錆びたレールを通って木次線に直通する、たぐい稀な臨時列車だと思われた。

 三次で多くの乗客が乗り込んでくる。車窓は日本的な農村風景のなかに真新しい工場が点在するようになる。このあたりの民家の多くは釉薬をかけた色瓦葺きで、必ずと言っていいほど小さな鯱が乗っている。中には鳩や波をかたどった瓦を載せている家もあり、退屈しない。

 志和口で座席がほぼ埋まり、狩留家あたりからは周囲もだいぶ開けてくる。対向列車の数も増え、駅ごとに黄色いローカル列車を退避させて急行列車にふさわしい走りっぷりだ。このあたり、大田川をはさんで可部線がすぐ近くを走っている。しかし、太田川には大きな堤防が築かれていて、結局、線路を確認することはできなかった。16時22分、定刻広島着。

 広島駅の駅弁売り場には、コンビニ弁当のような、中身が見える透明なフタがついた幾種類もの駅弁が並んでいる。少々食欲をそそられるが、ここでは何も買わない。

■広島〜新大阪〜尼ケ辻

 17時10分まえ、新幹線ホームに入る。長蛇の列の自由席乗車口をチラと見て、9号車の場所で待つことする。このあと、とっておきの愉しみが待っている。

 独特のタイフォンを鳴らして、ひかり56号が入線。JR東海所属のX5編成。さっそく食堂車へ。食堂は適当な混み具合でいちばん奥の二人掛けのテーブルに案内される。早速ウエイトレスが注文を聞きにくる。胸の名札には『Jダイナー新大阪』とある。ビールで喉を潤してひと息ついた頃には、壁面の速度計が216Km/hを示していた。

 列車食堂の個々のメニューはとびきり旨いというわけではないけれど、揺れる車内でグラスに注がれた飲み物を飲み、温かい食べ物を食べられるのは有り難いことである。福山でのぞみ24号を退避。ドンという音とともに大柄な食堂車が揺れ、300系が駆け抜けていく。今日は日曜日。わざわざ高い金払ってまで急がんとあかんのかなあ、とも思う。

 岡山を過ぎるころからピッチが上り、六甲トンネルを抜ける頃にはビール4本が空いた。先月、出張帰りに500系でこの区間を通ったのだけれど、食堂車での2時間はそれよりずっとはやく過ぎたように思えた。

 19時15分、新大阪着。乗る人・降りる人が交錯する。とんでもない大都会に来た感じである。駅売店で551の豚饅を買い、地下鉄・近鉄を乗り継いで帰宅した。

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