たいていのPHS端末には、『トランシーバモード』という機能が備わっている。
これは、PHS端末どうしで直接通話するもので、携帯電話(PDC)をはじめとする他の移動体通信システムにはない独自の機能である。
端末どうしで直接通信ができるのは、PHSが"上り"(端末から基地局への送信)・"下り"(基地局から端末への送信)の通信を同じ周波数を使って行っているからだ。PDCや第三世代の携帯電話(FOMA)、MCAなどは、"上り"・"下り"で別々の周波数を使う。つまり、これらの端末には"上り"周波数の電波を送信し、"下り"周波数の電波を受信する機能しか備わっておらず、端末どうしの通信は機構的に不可能なのである。
他方、法律的には、PHS端末は"特定小電力"という免許を要さない無線局とされている。したがって、日本国内では、誰でも自由にPHS端末をトランシーバとして使ってよい。他の移動体通信端末は、すべて総務大臣の免許を要する無線局であり、法律的にも勝手に使うわけにはいかないのである。なお、PHS端末をトランシーバとして使用する場合、基本料や通話料などはいっさいかからない。
さて、PHS端末をトランシーバとして使う場合、ユーザーの最大の関心事は、『どの位電波が飛ぶのか?』ということであろう。
公式には『見通し100m程度』ということになっている。しかし、スキー場のように、障害物が何もない場所であれば、数百mはゆうに通信が可能である。逆に、途中にコンクリート壁などがある場合、十数mの距離であってもまったく通信ができないことも珍しくない。これは、PHSが1.9GHz(=1900MHz)という極めて高い周波数の電波を使っているからだ。一般的に、電波の周波数が高ければ高いほどその直進性が強くなり、途中に障害物があると電波が届きにくくなる。
PHS独自のトランシーバ通話だが、すべての端末で相互に通話ができるわけではない。基本的には、同一の親機に登録された子機どうしでしか通話はできない。
親機というのは、DoCoMo式(?)にいうと、オフィスステーションやホームステーションのことである。PHS端末をこれらの親機に登録すると、自動的に『トランシーバモード』の利用が可能になる。端末のメーカー・ブランドは関係がない。
たとえば、NECの無線ターミナルアダプタ AtermIW60には、DoCoMoブランドの大半の端末とASTELブランドの一部の端末を登録することができるが、同じIW60に登録したPHS端末ならば、DoCoMo端末とASTEL端末の間でトランシーバ通話ができる。
参考までに、最近のDoCoMo端末でのトランシーバ通話の方法を述べる。なお、他のDoCoMo端末も、概ね下記に準じた方法でトランシーバモードの利用が可能である。(親機への登録もしくは後述の"おまじない"は済んでいるものとする)
DoCoMoの松下通信製端末には、『公衆/トランシーバ』という便利なモードがある。公衆用PHS端末としてネットワークからの呼び出しに備えるいっぽう、同時にトランシーバとしても使える機能である。個人的には非常に重宝しているが、SHARPやNEC製のものには装備されていない。
初期の端末は、トランシーバモードでは音声通信しかできなかったが、最近のものはデータ通信も可能である。カード型タイプのものは、一度モード設定を行うと、パソコンからカードを抜いても設定値は記憶されている。
なお、1台のPHS端末を複数のオフィスステーションもしくはホームステーションに登録することが可能である。複数の親機に登録したPHS端末をトランシーバとして使う場合、『どの親機に登録した子機か』が問題になる。マニュアルには明記されていないが、トランシーバモードにした場合、どうやら『もっとも先に登録した親機に属する子機』として動作するようだ。これは少々困った仕様であるが、現実的には次項に述べる方法で問題をクリアすることができる。
前項で、『同一の親機に登録された子機どうし』でしかトランシーバ通話ができないと書いたが、DoCoMo端末の場合は、実はオフィスステーションもしくはホームステーションに登録された端末が1台あれば、あらかじめ特別の操作を行うことによって、任意の端末とトランシーバ通話ができるようになる。現実問題として、PHS端末をトランシーバとして用いる場合、こちらの方法のほうが実用的である。
『特別の操作』というのは、マニュアルで『トランシーバの内線番号を変更する』などという表現で解説されている操作である。要するに、オフィスステーションもしくはホームステーションに登録されている端末(以下、登録済み端末という)を"親"にして、他の端末(以下、未登録端末という)にトランシーバ通話が可能になる"おまじない"をかけるわけだ。"おまじない"が済めば、上記の手順でトランシーバモードが利用できるようになる。
実際には、登録済み端末を"送信側"、未登録端末を"受信側"として、トランシーバの内線番号を変更する操作を行えばよい。この操作を行うことによって、すべての端末は、登録済み端末の親機に属する子機として、相互にトランシーバ通話が可能になる。別の親機に登録されていた端末でも、未登録端末としての操作を行うことにより、他の親機に登録された端末とトランシーバ通話が可能になる。
"おまじない"によってトランシーバ通話が可能になった端末を使って、更に他の端末に"おまじない"をかけることは原則としてできない。ただし、最近の松下通信製の端末は、これが可能なようである。(詳細は未確認)
以下に最近のDoCoMo端末での"おまじない"の方法(トランシーバの内線番号を変更する操作)を述べる。なお、他のDoCoMo端末も、概ね下記に準じた方法で"おまじない"ができる。
上記の操作は、送信側・受信側を近づけて行う必要がある。また、送信側の操作が完了してから概ね数十秒以内に受信側の操作を終えなければならない。
また、上記操作で使う『4桁の暗証番号』は、その場限りのまったく任意の数字であり、端末自体に登録された暗証番号とは関係がない。ただし、送信側と受信側で同じ数字を入力する必要がある。『トランシーバとして使うときの自局の番号』は、0001から7999までの任意の4桁の数字を指定可能である。ただし、同じ番号を持つ端末が2台以上あると、通信する際に不都合がおきるので注意が必要である。
ここに記載した内容は、メーカーの公式発表以外に私が独自に解析したものが含まれます。操作の結果についての責任は負いかねますので、あなたの自己責任で行ってください。 |
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2002.1.1 制作 2001.1.5,2005.3.3 訂補