PHS端末の一部には、俗に"電測モード"と呼ばれる機能がある。一般ユーザー用の端末であっても、簡単な操作で"簡易電界強度測定器"に変身するのである。
基地局ひとつを設置すれば、半径数Km〜数十Kmの範囲が一気にサービスエリアになる携帯電話(PDC)と異なり、PHSの基地局(CS)がカバーするエリアの半径は、精々数百m〜数Km程度である。PHSサービスの開始当初、そのサービスエリアはスポット状のところが多く、『買ったはいいけど、自宅じゃ使えなかった』という苦情が多かったときく。各電話会社は、ユーザー宅に出向いて、新たなCSの設置を検討することが多々あったらしい。その際活躍したのが、この"電測モード"なのである。
現在、都市部ではPHSのサービスエリアはほぼ面状となっており、『PHSが使えない』というクレームも減った。最近新たに発売される端末には、ごく一部を除いてこの"電測モード"は装備されていない。
私が使っているPALDIO 331T-II(NTT DoCoMo)は、同社最後の"電測モード"端末である。ここでは、この端末の"電測モード"について紹介したい。
■"電測モード"への切り換え
次の手順で、"電測モード"となる。
1) 一旦電源を切る。
2) "1"、"4"、"9"と終話ボタン(赤い電話機が描かれたボタン)を同時に押す。
3) 電池残量表示が消えたらすぐに発呼ボタン(緑色の電話機が描かれたボタン)を押す。→LCD(液晶ディスプレイ)『工注 項目選択』と表示される。
4) "2"を押す。→『レベル表示 1:ON 0:OFF』と表示される。
5) "1"を押す。
6) "保留/内線"ボタンを押す。
7) 一旦電源を切って、再度投入する。
※"電測モード"の解除は、4)で"0"を押す。一度"電測モード"になると、解除の操作をしない限り、電源を切っても有効。
■"電測モード"の表示項目
前項の操作で"電測モード"にしたときのLCDの様子を示す。
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■CS-ID
公衆用CSとホームアンテナ(HA)からの電波を受信しているときは、10桁の16進数で表示される。実は、PHSのCS-IDは、42bitの2進数である。331T-IIで表示されるのはこのうち下位38bitであり、最下位2bitぶんは"0"で埋めて表示される。従って、LCDに表示されるCS-IDの下1桁は、"0"、"4"、"8"、"C"のいずれかである。
自営用CS(オフィスステーション(OS)・ホームステーション(HS))の場合は、10進数での表示となる。
■チャネル
16進表示である。PHSは、ひとつのチャネル(周波数)を時分割多重(TDMA)という方法で最大4組のCSと端末(PS)で共用するから、すぐ近くで同じチャネルを使用する端末が存在しても、必ずしも混信を起こすとは限らない。
■フレーム誤り率
PHSでは、一定量のディジタルデータに誤りを検出するための符号をつけて、コマギレ状に送信する。受信側では、その符号をもとに、受信したデータに誤りがないかどうかの検証をする。フレーム誤り率とは、受信したデータ(の塊)のうち、どの程度が正しく受信できなかったかを示す。
一般には、次項に示す電界強度が大きいほど、フレーム誤り率は小さくなる。しかし、混信を起こしたり、フェージングがあったりすると、電界強度は十分であっても正しく受信できないこともある。経験的には、このフレーム誤り率が2桁になると、まともな会話はできない。なお、通話をしていないときは、フレーム誤り率は表示されない。
■電界強度
受信している電波の強さを示す。331T-IIでは、最大70dbである。簡易測定器であるから、目安程度と考えたほうがいいだろう。
■PHSが使用する周波数
PHSの特徴は、各CSが自律的に通信に使用する周波数を決めることである。
通信を始めるときは、その都度、適当なチャネルを一定時間受信し、他局の電波が受信されないことを確認してから電波を発射する仕組みである。各周波数の用途はあらかじめ決まっているが、システム全体として通話ごとに周波数を決める仕組みは存在しない。
現在、PHSのCS・PSが使える周波数は下表のとおりである。
このうち、ch73・75・77は、公衆用の制御周波数で、DoCoMoと公衆契約した端末は、待ち受け時は常にch73を受信している。ch12・18は自営用の制御周波数で、オフィスステーションモード・ホームステーションモードの待ち受けは、このうちいずれか一方を受信することになる。面白いのはHAモードで、待ち受け中は、この自営用制御周波数を受信しているのである。つまり、HAは、公衆用CSと通信するPSであると同時に、自営CSでもあるのである。
ch(10進) | ch(16進) | 周波数 | 用途 |
251 | FB | 1893.65 | 自営・公衆通話用 |
252 | FC | 1893.95 | 自営・公衆通話用 |
253 | FD | 1894.25 | 自営・公衆通話用 |
254 | FE | 1894.55 | 自営・公衆通話用 |
255 | FF | 1894.85 | 自営・公衆通話用 |
1 | 1 | 1895.15 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
2 | 2 | 1895.45 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
3 | 3 | 1895.75 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
4 | 4 | 1896.05 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
5 | 5 | 1896.35 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
6 | 6 | 1896.65 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
7 | 7 | 1896.95 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
8 | 8 | 1897.25 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
9 | 9 | 1897.55 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
10 | A | 1897.85 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
11 | B | 1898.15 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
12 | C | 1898.45 | 自営制御用 |
13 | D | 1898.75 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
14 | E | 1899.05 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
15 | F | 1899.35 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
16 | 10 | 1899.65 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
17 | 11 | 1899.95 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
18 | 12 | 1900.25 | 自営制御用 |
19 | 13 | 1900.55 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
20 | 14 | 1900.85 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
21 | 15 | 1901.15 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
22 | 16 | 1901.45 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
23 | 17 | 1901.75 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
24 | 18 | 1902.05 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
25 | 19 | 1902.35 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
26 | 1A | 1902.65 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
27 | 1B | 1902.95 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
28 | 1C | 1903.25 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
29 | 1D | 1903.55 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
30 | 1E | 1903.85 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
31 | 1F | 1904.15 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
32 | 20 | 1904.45 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
33 | 21 | 1904.75 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
34 | 22 | 1905.05 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
35 | 23 | 1905.35 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
36 | 24 | 1905.65 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
37 | 25 | 1905.95 | 自営・公衆及び子機間通話用 |
38 | 26 | 1906.25 | 公衆通話用 |
39 | 27 | 1906.55 | 公衆通話用 |
40 | 28 | 1906.85 | 公衆通話用 |
41 | 29 | 1907.15 | 公衆通話用 |
42 | 2A | 1907.45 | 公衆通話用 |
43 | 2B | 1907.75 | 公衆通話用 |
44 | 2C | 1908.05 | 公衆通話用 |
45 | 2D | 1908.35 | 公衆通話用 |
46 | 2E | 1908.65 | 公衆通話用 |
47 | 2F | 1908.95 | 公衆通話用 |
48 | 30 | 1909.25 | 公衆通話用 |
49 | 31 | 1909.55 | 公衆通話用 |
50 | 32 | 1909.85 | 公衆通話用 |
51 | 33 | 1910.15 | 公衆通話用 |
52 | 34 | 1910.45 | 公衆通話用 |
53 | 35 | 1910.75 | 公衆通話用 |
54 | 36 | 1911.05 | 公衆通話用 |
55 | 37 | 1911.35 | 公衆通話用 |
56 | 38 | 1911.65 | 公衆通話用 |
57 | 39 | 1911.95 | 公衆通話用 |
58 | 3A | 1912.25 | 公衆通話用 |
59 | 3B | 1912.55 | 公衆通話用 |
60 | 3C | 1912.85 | 公衆通話用 |
61 | 3D | 1913.15 | 公衆通話用 |
62 | 3E | 1913.45 | 公衆通話用 |
63 | 3F | 1913.75 | 公衆通話用 |
64 | 40 | 1914.05 | 公衆通話用 |
65 | 41 | 1914.35 | 公衆通話用 |
66 | 42 | 1914.65 | 公衆通話用 |
67 | 43 | 1914.95 | 公衆通話用 |
68 | 44 | 1915.25 | 公衆通話用 |
69 | 45 | 1915.55 | 公衆通話用 |
70 | 46 | 1915.85 | 公衆通話用 |
71 | 47 | 1916.15 | 公衆通話用 |
72 | 48 | 1916.45 | 公衆通話用 |
73 | 49 | 1916.75 | 公衆制御用(NTT DoCoMo系) |
74 | 4A | 1917.05 | 公衆通話用 |
75 | 4B | 1917.35 | 公衆制御用(ASTEL系) |
76 | 4C | 1917.65 | 公衆通話用 |
77 | 4D | 1917.95 | 公衆制御用(DDI系) |
78 | 4E | 1918.25 | 公衆通話用 |
79 | 4F | 1918.55 | 公衆通話用 |
80 | 50 | 1918.85 | 公衆通話用 |
81 | 51 | 1919.15 | 公衆通話用 |
82 | 52 | 1919.45 | 公衆通話用 |
2002年2月28日の総務省告示第131号によれば、約10年をかけて、PHSが使用する周波数を変更することになった。これは、世界共通の規格として定められた第3世代移動通信システム(IMT-2000)への干渉を避けるためである。
告示によれば、1884.65から1893.35MHzまでの30波がPHS用として新たに割当てられる。その代わり、1915.85から1919.45MHzまでの13波は、2014年5月31日をもって使用を中止することになっている。
単純に考えれば17波が増えた計算になるが、今回の変更の最大の問題点は、公衆制御用の周波数が使えなくなることだ。
PHSや携帯電話など、MCA方式の通信システムにおける制御チャネルは、極めて重要な役目を担っている。これらの端末には制御チャネルの周波数が予め記憶させてあり、電源を投入すると、この周波数を受信して基地局からの指令を受けることになっているからである。
通話用の周波数は、制御チャネルを通じて基地局から指示される仕組みである。だから、通話用周波数を変更するには、基地局だけの改修で済む。しかし、制御チャネルの周波数を変更するには、すべての端末を改修せざるを得ないのである。
現実的には、通信キャリアが旧端末を回収し、代わりに契約者に対して新端末を無償で交付するのであろう。ところが、PHS端末は、自営端末としても使用できるのがウリである。通信キャリアが一方的に新端末を送り付ければ済む話ではない。
それでなくても儲からないPHS事業に頭痛のタネがまたひとつ増えたことになる。
(2002.5.20追記)
ここに記載した内容は、メーカーの公式発表以外に私が独自に解析したものが含まれます。操作の結果についての責任は負いかねますので、あなたの自己責任で行ってください。 |
(C)Heian Software Engineering
2000.12.7 制作 2002.5.20 訂補