携帯電話のはなし(4)−−−電源を切る理由

■電源を切る理由

 前に示したポスターをもういちど示す。
 『の電源をお切り下さい』という部分は張り紙がされている。張り紙がされる前は、『を使わないで下さい』という表現であった。ポスターが掲示されてから約半年して修正されたと思う。

 実は、携帯電話機は通話をしなくても電波を発射するのである。着信があれば電波を発射することは理解できるが、仮に転送電話などを使って着信を拒否したとしても、電波を発射することがあるのだ。

■着信制御と位置登録

 一般の加入電話から携帯電話に発信すると、程なく呼び出し音が聞こえる。もしくは、『あなたがおかけになった電話は電波の届かない場所に...』のアナウンスが流れる。その仕組みの概要はつぎのとおりだ。

 通話をしていないときの携帯電話は、『着信制御チャネル』という電波を受信している。この『着信制御チャネル』というのは一種の呼び出し放送みたいなもので、例えば030-12-34567という電話に着信があると、この電波で『030-12-34567はおらんか』という呼び出しがなされるわけだ。
 これに対して、030-12-34567という番号の移動局だけが、『はいはい、おりまっせ』という返事をする。もし、ここで返事がなければ、発信した側には例の『あなたがおかけになった電話は電波の届かない場所に...』の案内が聞こえるわけだ。

 ところで、携帯電話機は日本全国を動き回る可能性がある。030-12-34567は北海道にいるかもしれないし、大阪かも知れない。どこにいるかわからない携帯電話機を確実に呼び出そうと思うと、日本全国すべての基地局から『030-12-34567はおらんか』という問い合わせをしないといけない羽目になる。
 これでは『着信制御チャネル』の容量がパンクしてしまうから、現在の移動電話システム(アナログ・ディジタル・PHS)はすべて、『位置登録』という手順で、あらかじめ各電話機のだいたいの居場所を把握することになっている。

 『着信制御チャネル』では、呼び出しのほかに『ここはどこか』という情報が放送されている。携帯電話機はつねにこの情報を記憶していて、万一、電話機が覚えている居場所と放送されてくる居場所が違えば、『オレはここにいるよ!』ということを基地局に向かって申告するわけだ。これを位置登録という。
 そうすることによって、基地局側では呼び出し放送をかける地域を限定することができる。先の例で言えば、030-12-34567が大阪にいることがわかっていれば、北海道や沖縄で無駄な呼び出しをしなくていいのである。
 なお、『ここはどこか』という情報であるが、アナログ携帯電話の場合は概ね都府県単位になっている。東京や大阪など、ユーザーの多い地区では更に細分化されている。ディジタル携帯電話の場合はもっと細かい。

 理論的には、携帯電話機が移動しなければ位置登録は起きないはずだが、実際の居場所の判定は単に電波の強弱で決まる。たとえば、多摩川沿いのビルの中では、西側からの電波を捕らえれば神奈川、東側からのそれであれば東京にいると判断されるであろう。携帯電話を持ってビルの中をウロウロしてる間にも、せっせと位置登録が行なわれるのである。(ディジタル携帯電話の場合は、こうしたことがある程度防げる対策がとられている。)

■位置登録を確かめる

 『電波検知器』を使えば、携帯電話機が黙々と位置登録を行っているのを観察できる。
 電波検知器をつけた携帯電話をクルマに積んでドライブするとよい。時々、チカッと発光ダイオードが光るのが分かる。
 アナログ携帯電話などは見事で、県境のトンネルを出ると間髪置かずチカッとくる。東京駅からの新幹線に乗れば、浜松町付近と多摩川を渡ったあたりでこの現象が観察される。浜松町で位置登録をするのは、東京駅がある千代田区と港区・品川区が別のエリアになっているからだ。
 ディジタル携帯電話では、各移動局ごとに位置登録を行う場所が違うが、私が見たところでは、アナログよりも遥かに位置登録動作が多いようである。アナログとは比較にならない位のユーザーを収容しているはずだから、着信制御ゾーンも相当小さく分割されているようだ。

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